子どもの過酷な経験が及ぼす影響

 

親から尊重されず暴力や暴言(マルトリートメント・不適切な養育)を受けたり、

親と別離・死別したりする「逆境体験・ACE」を

18歳までに多く経験すると将来どういった影響が出るのか。

 

全国2万人を対象にした調査の結果、心身の病気や経済的な苦境、

人間関係上の困難さといった人生のあらゆるリスクが高まることが明らかになった。

 

米国では対策に国家レベルで取り組んでおり、

専門家は「日本も影響の重大さを直視すべきだ」と訴えている。

 

日本では散発的な研究にとどまっているが、

大規模調査は令和3年に京都大が実施し、

20~69歳の男女2万人から有効な回答を集めた。

 

18歳までに、親から殴られた、家族から大切に思われていないと感じていた、

親が別居や離婚をした、母が暴力を受けていた、

家族が飲酒の問題を抱えていたなど10項目を質問した結果、

驚くことに対象者の約4割が1つ以上の虐待を経験していることが分かった。

 

また、一般に貧困家庭で育つと逆境になりやすいといった傾向は知られるが、

こうした他の要因を排除する統計的な処理をした上で、

ACEの該当数が人生にどう影響するかを分析している。

 

その結果、スコアが4以上の人はゼロの人に比べ、

健康面で「重度のうつ・不安障害」に4倍、「自殺念慮あり」に

4・4倍、社会経済面で「中卒」に2・9倍、「失業」に1・8倍、

人間関係で「未婚」に1・3倍、「離婚」に1・9倍なりやすく、

スコア1~3でも段階的にリスクが増加する傾向があった。

 

さらにスコアが高いほど人に頼ることができないため孤独や孤立に陥りやすく、

3以上の人は自身が子供を虐待するおそれも2倍ほどになる。

逆境が世代間で連鎖しやすいことも示された。

 

リスク軽減は可能

 

ACEは、なぜこれほどの影響を及ぼすのか。医学分野の最新研究では、

慢性的なストレスにさらされることでホルモン分泌の異常や脳の萎縮、

DNAの働きの阻害が起きることが分かっている。

 

体内が変化することで、スコア4以上の人は

ゼロの人より脳卒中に5・8倍なりやすくなるなど、

具体的な病気のリスクが高まることも研究で判明している。

 

ストレスケアを行うことでリスクは減少させられる。

しかし、日本ではこうした虐待の及ぼす影響の知識が

一般にはまだ知られていないのが現状だ。

 

 

ACE 

(Adverse Childhood Experiences)の頭字語。

「子供期の逆境体験」と訳され、18歳までに虐待やネグレクト(育児放棄)、

家庭の機能不全にさらされる体験を意味する。

さまざまな悪影響が明らかになりつつあり、欧米を中心に研究が進められている。