19歳の少年との面接
「自分のことをどう思っている?」とたずねると、
「短気で怒りをコントロールできない・・・」と
けっこうネガティブで攻撃的な自己評価を伝えてきました。
「なるほど、怒りをコントロールできないのはなぜ?」と聞くと、
「自分と合わない人間はダメですね。見ているだけでイラッとなります」
「なるほど、そういう理由で〇〇君は、自分のことを短期で
感情的になりやすい人間だと考えているわけですね」
少年はしばらく沈黙・・・・
「では、トンネルの話をするから、トンネルはどこにあるのか考えてみて」
「山があって、そこに穴を開けて壁と道を作るよね。トンネルはどこですか?」
「えっ、トンネルですか? 掘った穴です」
「そのとおり」
「では、その穴は確かにトンネルだけれど、
トンネルだけを見ることはできますか?」
「えっ、どういうことですか?」
「だから、トンネルだけにすることはできるかと聞いています」
「・・・・・。できない・・・???」
「そう、トンネルだけの存在を見ることはできない」
「では、〇〇君がトンネルだと考えてみよう」
「〇〇君の道や壁や山はなんだと思う」
「・・・親ですか?」
「そうですね、親や家族、知人、友人、学校、仕事などになりますね」
「つまり、〇〇君が「自分はこういう人間」だと考えるのは、
周りの人間関係によって自覚していることになるよね」
「う~ん、なんとなくわかります」
「つまり、人間は単独では自分が分からない。
出会っている誰かによって自分を自覚していることになっている」
「えっ、それって今の自分は誰かのせいでこういう人間に
なったということですか?」
「それは違います。トンネルは偶然できたわけではなく、
誰かの役に立つために山や道、壁と関わっています。
だから、トンネルが関わりの中心になります。
「・・・」(少年はよくわからん、という表情)
「つまり、今の〇〇君の考えには自己決定がなされていない。
自己決定しなければ、自分は誰かのせいでこうなった、
こうさせられていると自覚してしまいます」
(中略)
「私が伝えたいことは、ただ一つです。それは、私は誰?どういう人間?
ということを考えたとき、そのとき、そのときに出会った人
よって自分のイメージを作っているということです。
「自分にとっていい人に会うと気分がよくなるし、
嫌いな人に会うと気分が悪くなるよね」
「・・・」(少年の表情に変化がみられる)
「〇〇君の短気で怒りをコントロールできない」という自覚は、
実際に「ある」のではなく、常に変化している単なる
「印象」や「現象」に過ぎません。
だから、自分はこういう人間だというとらわれを捨てて、
いつも関わりの中心は自分なんだということを考えて欲しいのです」
(中略)
「これから人間関係で悩んだり、苦しいときがあると
今日のトンネルの話を思い出して下さい。そして、自分自身の記憶の
中に自分を探すのではなく、今、感じていること、今、出来ていること
に集中して、他者を思い、誰かの役に立つことをしてください」
少年は笑顔で
「はい、そうしていきたいと思います」と答え
約1時間の面接を終えました。