ナムジュン

 

22年 6/30

 

 

僕の手が自ら意志を持ったかのように「開く」のボタンを押した自分を、僕は多少おかしいなと思いながら見ていた。

こんな瞬間があった。

確かに初めてなのに、何度も繰り返して来たかのような気分になる瞬間。

閉まる直前のエレベーターのドアがまた開いて、人々がお互いに押しながら乗り込んで来た。

その中に黄色い輪ゴムで髪の毛を結んだ人がいないか、目で探した。

その人がいることが分かっていて開くボタンを押した訳じゃないけど、その人は必ずいるだろうという考えがよぎった。

一歩、また一歩と、後ろに下がって行った。

冷たいエレベーターの壁が背中に付いて、顔を上げてみると黄色い輪ゴムが目に入った。

後ろ姿は多くを語る。

僕はその中のいくつかを知っているだけだ。あることはぼんやりと察しがついて、またあることは最後まで理解できないままに残った。

ふと、後ろ姿から全てを読み取ることができた時にやっと、その人のことを「知っている」と言えるのではないかという考えが浮かんだ。

そうしたら僕の後ろ姿から僕の全てを読み取ってくれる人もいるんじゃないだろうか。

顔を上げたら、鏡の中で視線がぶつかった。

瞬間的に目を逸らした。こんなことが、しょっちゅうあった。

再び顔を上げた時、鏡には僕の顔だけが見えた。

僕の後ろ姿は見えなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

承 p5

20年 5/15

 

 

行く所がなかった僕たちにアジトになってくれた倉庫の教室を横切って歩きながら僕は椅子を何個か真っ直ぐに立て直した。ついでに倒れた机を起こしてホコリも手でパッパッと払った。

最後というものは人を感傷的にさせる。

今日は学校に来る最後の日だ。

引っ越しが決まったのは二週間前のことだった。もしかすると、もう戻って来れないかもしれない。兄さんたちや弟たちに、もう二度と会えないかもしれない。

プリントを半分に折り畳んで机の上に置いて、鉛筆を握ったけど、どんな言葉を残さなければいけないのか分からず、ただ時間だけが流れて行った。

ありきたりな言葉を殴り書いていた時に鉛筆の芯がボキッと音を立てて折れた。

「生き残らなければならない。」

黒い芯が折れた時に破片のような痕を残したプリントの上に、僕自身も知らずのうちにあちこちに落書きが描いてあった。

真っ黒な黒い芯の粉と落書きの間に 貧困、両親、弟、引っ越しその他もろもろの気の滅入るような話が散らばっていた。

プリントをギュッと握ってポケットに入れて席を立った。机を押したらホコリが舞った。

そのまま出て行こうとしたけど、汚れている窓に息を吹きかけて三文字を書き残した。

どんな挨拶も不十分で、何も言わなくても全てが伝わるだろう。

また会おう。 

約束というよりは、願いだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

承 p6

22年 4/11

 

 

まだ新しい方のTシャツを探していたんだけど、テヒョンが後ろから手を伸ばしてシャツを一枚掴んで行った。

今俺が着ているのと同じ文字がプリントされているTシャツだった。

テヒョンは、ぎこちない様子で笑って破けたシャツを脱いだ。

トレーラーボックスにかけておいた仄暗い照明の下で、一瞬だけ青あざのある背中が見えた。

ホソクが驚いた顔で俺を見つめていた。

テヒョンは俺のTシャツを着て、汚れた鏡に自分を映し見た。

そして笑った。

こいつがグラフィティしたのを見つかって暴れて警察署に連れて行かれたのを回収して来るのに時間がかかった。

俺はテヒョンを小突く真似をして、テヒョンもオーバーに申し訳ないふりをした。

トレーラーの隅に座っていたユンギヒョンが、のそのそと近寄って来てテヒョンの肩をポンと叩いた。

 

 

 

 

承 V p6

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

21年 12/17

 

 

バスを待っている人達は寒さの中で手をこすり合わせた。

僕は自分のバックのストラップを掴みながら視線を下げて誰とも目を合わせないように努力した。一日に2台しかバスが止まらない田舎の村だった。

遠くから始発のバスが近づいてくるのが見えた。僕は他の皆の後に続いてバスに乗り込んだ。僕は振り返らなかった。僕が何かに情熱を抱いた時、僕が何かを手に入れたい時、何も残ってない時に逃げようとした時、僕なりの条件を持っていた。僕は振り返らなかった。僕が振り返った瞬間、今までにやった僕の努力は水の泡になる。振り返ってみると、これは一種の疑惑であり、一種の長い愛着であり、一種の恐怖であった。僕がこれらの事を克服した時だけ僕が最終的に逃げる事ができる。

バスが出発した。僕は計画も無かったし切実な何かも無かった。それよりも、むやみに逃げる為の特別な理由に近かった。母の疲れた顔、放浪する弟、父の病気。僕は無意識に逃げる寸前だった。日に日に難しくなる家庭事情。平穏を徹底的に果たした僕の家。何も知らないフリをして適応し、僕の成長を止めさせようとした家から自分自身を抑制した。しかし、そのほとんどは貧困から逃れようとしていた。誰かが貧しい人に犯罪かどうかを尋ねたなら誰もがそうではないというだろう。しかし、それは本当なのか?貧困は非常に多くのものをかじる。貴重だったものは無意味になる。諦めきれないことを諦める。疑わしく恐ろしい成長をやめる。

バスは数時間で見慣れた停留所に到着した。一年前にその場所から去った時に、僕はメッセージを残さなかった。そして今、僕は兆候や警告なしで戻ってきた。

僕は友人の顔を思い浮かべた。僕はそれら全ての接触を遮断した。

彼らは、最近何をしていたのだろうか?

集まる事が出来たら嬉しいですか?

僕達が集まって当時の出来事を笑いながら話せるだろうか?

窓には霜ができていていて外の風景が見えなかった。霧の上で僕はゆっくり指を動かした。

「生き残っていかないといけない」

 

 

 

 

 

 

 

22年 5/22

 

 

僕達は辛うじて一年離れていない。

その人がそう言った。僕が知っているお兄さんだった。彼は、永遠に子供でいる事はできないと僕に言った。それは、彼が今より独立して分けなく物事を行う為の時間ではない。確かに僕は言った。いいえ、怒ってはいません。電話を切り床を見た。ごめんなさい。暖かい海の空気が松の木の森を襲った。僕の心の中に詰まって爆発するように感じた。アリは砂と土を混ぜた地面に線を付け、ある目的地に向かっていた。物理的にも象微的に大きな存在を知る持つ人がいた場合、彼らは、僕が何処に向かうのか。何故そこに向かうのか。最終的にどのように僕は終わるのだろうか?

僕は、両親が好きではなかった。弟の事は心配しなかった。それが可能ならば、僕は僕の頭を遠ざけたくはなかった。しかし、選択肢がなければ、僕はただの僕であり、僕は待つ事ができなかった。だから、僕が苦しんで、怒って、窒息して、こんな風に逃げ出したいというのは、どういう意味なのか?先程と同じように地面に釘付けになってそこに立っているように見える誰かの後部を見た。それは、ジョングクだった。

 

以前、「僕は、ヒョンのような大人になれると思いますか?」とジョングクが言った。その時は言えなかった。

いい大人じゃない。その時僕は、あまりにも酷いことを言ってしまうのではないかと思った。愛と関心は僕が受け入れる必要があり、そして、愛を受けなかった若い友人。僕は年を重ね、背が高くなり、もう少し生きる事、それだけでは大人にはなれないと彼には言えなかった。僕は、ジョングクの将来は僕よりも親切な事を望んだ。しかし、僕は彼にそれを約束する事はできなかった。僕は彼に近づき、彼の肩の周りに腕を置いた。ジョングクは目を向けて僕を見た。

 

 

 

 

 

 

 

 

22年 7/13

 

 

バスの窓に頭を休ませた。図書館からガソリンスタンドまで、バスの窓の側を通った風景のこのルートを僕は毎日通っている。窓から通り抜けた景色は全てが怖かった。果たしてこの景色を置き去りにする日が来るだろうか。明日は何をもたらすか。僕は、明日が何をもたらすかを予測する事も、何かを願う事も不可能だと感じた。

僕の前に座っている女性がいた。彼女の髪の毛はヘアゴムで結ばれていた。彼女がため息をしているのが肩から精一杯伝わってきた。その後、彼女は窓に頭を休ませた。約1ヶ月前から同じ図書館で勉強をして、同じ停留所でバスに乗っていた。僕達は互いに言葉を話さなかったが、同じ風景を見て、同じ時間を生きていて、同じため息をはいた。ズボンのポケットにはヘアゴムがまだ入っていた。彼女はいつも僕より3駅前で降りた。彼女が降りるのを見る度に、またチラシを配りに行くんだろうかと疑問に思った。彼女はどんな時間を過ごしているのか。彼女はどんな事に耐えているのか。明日は来ないかもしれないという思いで、彼女は窒息を強く感じたのか。それとも最初から明日のような事は無かったのだろうと感じたのか。僕はそのような事を考えた。彼女が降りる停留所に近くなり始めた時、誰かが停車ボタンを押して他の乗客が座席から立ち上がった。しかし、その中で彼女は動揺すらしてなかった。彼女は頭を窓に寄り添ったままで彼女は眠っているようだった。僕が行って彼女を目覚めさせるべきかと僕はしばらく自分と葛藤した。バスが停留所に近づいた。彼女はそのままだった。人々がバスを降り始めドアが閉まりバスが出発した。彼女は、次の3つの停留所を通過しても目覚めなかった。僕はバスのドアに移動した。僕は再び僕自身と戦った。僕がバスを降りると誰も彼女に注意を払わない事が明らかだった。彼女は何処で目覚めるだろうか。彼女は何処か遠くの停留所で目覚めるだろう。それによって、今日一日がどれ程疲れているか分からなかった。僕はバス停を離れてガソリンスタンドに向かって歩き始めた。バスは通常通りに出発し、僕は振り返らなかった。僕は彼女のバックの上にヘアゴムを残したがそれはそれだった。それは始まりではなく終わりでもなかった。それが何かになる理由はなかった。だから本当に何も関係ないと僕は考えていた。

 

 

 

 

 

22年 4/11

 

 

僕は給油をし終えた。僕は店に戻ろうとすると何かが僕の顔を払いのけ落ちていった。驚き見下ろすと、崩れ落ちるように請求書が僕の足元に落ちていた。反射的に、僕は下に崩れ落ちた。

車の中の人は笑った。そして、僕は下に崩れ落ちる前にとどまった。

ソクジンヒョンは遠くから僕を見ていた。僕は頭を上げるこが出来なかった。高級車を運転し、他の人たちを冷やかす人の目をまともに見るにはどうしたらいいのか?僕はそれに直面した。彼らが不公平な事をしていると信じるなら、彼らと直面しなければならない。それは自尊心や勇敢性または平等の問題ではない。それは僕がしなければならないことだ。

だが、僕はガソリンスタンドのアルバイト社員だった。客がゴミを投げ捨てたならそれを綺麗にしなければならなかった。彼らを僕が憂鬱にさせたなら、僕は耳を傾けなければならなかった。彼らが僕の足元に請求書を投げたなら、それを拾わなければならなかった。僕の体が屈辱と共に受け入れた。

僕は手のひらに爪が折れるくらい手を握った。その瞬間、誰かの手が届き、請求書を取り上げた。まるで楽しみが終わったかのような車でいっぱいになった。彼らが消えた後も僕は見る事さえ出来なかった。僕はソクジンヒョンを見る勇気さえ無かった。彼は僕の卑怯さや、貧困、僕の状況を知らなかった訳ではなかったが、依然として彼にはまだこの姿を見せたくは無かった。

ヒョンは僕の視線が途切れるまで立っていた。彼は動かなかった。彼は近づいては来なかった。彼は話さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

22年 4/28

 

 

僕はテヒョンと共に長い間ずっと起こっていることを知っていた。彼は間違った事は何も無いと何よりも思っていたのにも関わらず、彼の瞬間的な不安はそれを捨てた。彼はそれを扱う方法を知らなかったという事実は僕にそれを明確にさせた。

彼は警察署に出入りしていた。彼は全身に傷を持っていた。彼は悪夢を見ていた。僕はテヒョンが自分自身を育てるまで待っていた為に決してその問題を押さえる事はなかった。僕が彼に向き合う事がない理由は、僕がそれについて聞くために自分自身を疑ってしまったからだった。

僕は兄になりたかった。大人だった。しかし、結局のところ彼が苦闘した時、友人を助けられないという単純な事実があった。彼は皆素晴らしいと大人だと僕を褒めたが、僕は良い大人ではない。問題に直面した時、僕は僕の前に立つことを躊躇せず無視するしかなかった。

ユンギヒョンは死んだ。テヒョンは今日再びその悪夢を見る。僕は彼の眠りから揺さぶり寝かせてはいけないと思った。彼は長い間静かに腰を下ろし宇宙を眺めた。彼は自分の涙を拭き取らず、呆然とする間をひやりと落ちていった。

彼はユンギヒョンが死んでしまった事を認めたくは無かったし、ジョングクが事故に巻き込まれ死んだ、僕自身との戦いに包まれた。僕は日常的にそのような夢を見ると言った。彼がその夢が本当のように見えたと話した。

 

「ヒョン、どこにも行かないで下さい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

22年 7/20

 

 

僕は雑誌の広告をまじまじと見ることから頭を上げた。ここ数日の間、他の顔が図書館の向こう側の窓の席を独占していた。重たい本、大きな袋、紙コップは同じだったが、彼女ではなかった。僕はその雑誌を振り返ってみた。同じページを何度も繰り返し読んだ。僕の目は言葉を全く理解する事が出来なかった。僕は何故まだここにいるのか?僕は答えを見つける事が出来なかった。自分の世界に深く溺れてしまった人々の中で、僕は同じ雑誌のページを不用意に読んだ。だけど何も起きないと言う事は分かっていた。僕は雑誌を持ち本棚の周りを行き来した。それらは、僕よりも背が高い本でいっぱいだった。開かれた窓から空気中の香りが図書館に広がった。

僕は高校時代を思い出した。その倉庫にいる友達と読んだ本と同じ香りがした。僕は昔から今の僕を成長させたのか?僕は自分自身をポジティブにする事は出来なかった。当時は全てがマイナスにしか見えなかったのかもしれない。僕は別の本棚に移動し高校時代に学んだ古い本を選んだ。

僕はまたやり直さなければならなかった。僕は全てを一度一つずつ与えなければならなかった。