第6章 期待と不安

 

八王子ドライビングスクール に就職が決まった達也は、8 月1日の入社日を迎えた。 入社日は、8時迄に出社する 様にと会社から聞いていた達 也は、7時半に会社に出勤し た。 出勤した達也は、これから教 習指導員になる迄、達也を教 育する人となる石井課長に案 内され、面接の時に入った広 い応接室に通された。 達也は、一人で8時になるの を待っていたが「他に新入社 員は居ないのか?」と思って いた。 8時、会社の朝礼が始まる時 刻になり、達也は職員の人に 呼ばれ朝礼に出席した。 朝礼は指導員室で行われ、全 社員30人程が出席する。 まず所長の挨拶から始まり、 連絡事項、注意事項と話は進 み、やがて教習指導員見習い の新入社員の話になった。 新入社員は、達也一人で、今 年の10月の試験を受ける事を 所長は話していた。 達也は、「面接の時は、十数 人居たのに、採用されたのは 、俺だけ!?」「しかも試験 は、2ヵ月後の10月?」 達也は驚き、動揺した。 そんな達也をよそに所長は、 達也を呼び全社員の前で自己 紹介するよう促した。 達也は、驚きと動揺を隠しな がら自己紹介をし、全社員の 方から暖かい拍手で迎えられ た。 朝礼が終わった達也は、所長 室に呼ばれた。 所長室には、所長と、これか ら達也の教育を担当する石井 課長が待っていた。 所長から、「今回採用したの は、達也君一人だけです。期 待しているから、絶対一回で 教習指導員試験に合格して下 さい」と真剣な眼差しで言わ れ、達也は「はい、頑張りま す」と緊張しながら答えた。 次に石井課長を紹介され、こ れから教習指導員試験に向け て教育を担当する課長である 事を聞いた。 所長の話は直ぐ終り石井課長 と達也は、所長室を後にし応 接室に入った。 石井課長は「ちょっと待って て下さい」と言い応接室を出 て行った。 十分程待って居る間、達也は 、「応募者が、あんなに居た のに俺一人採用されるなんて 幸運だった。でも試験まで2 ヵ月しか無いのに本当に大丈 夫だろうか?」と考えていた やがて石井課長が、本と資料 を抱えて入って来た。 達也は、石井課長から6冊の 本と、試験に必要な資料を手 渡された。 達也は「教習指導員になるの は難しいと聞いてはいたが、 こんなに沢山の本と資料を渡 されるとは」と驚いた。 石井課長から教習指導員試験 の事で細かい説明が有った。 教習指導員になるには、まず 、会社(教習所)で事前教養 を受け、その後東京都指定教 習所協会の講習を受け、講習 が終了すると教習指導員試験 の受験資格が生まれる。 教習指導員試験は、学科試験 が6科目、実技試験が、所内 試験、路上試験の2科目と面 接試験が2科目で合計10科 目実施される。 学科試験は、東京都の場合、 5科目が論文試験で残りの1 科目が正誤式の試験が行われ る。 実技試験は、試験官と一緒に 車に乗り、当日発表になる試 験コースを走る。 面接試験は、会社の面接とは 違い、試験官の質問に、何の 資料や本を見ずに答えなけれ ばならない試験で有る事を達 也は聞いた。 さらに石井課長は「教習指導 員は、試験に合格するのも大 変だけど、教習指導員になっ てからの方がもっと大変なん だよ」「達也君はタクシーを やっていたから実技は多分問 題無いとは思うが、学科試験 が問題だね」「あと達也君の 話し方は、タクシーをやって いただけ有って、丁寧な言葉 遣いで所長も面接をした時か ら気に入っていたよ。所長の 期待に答える様に頑張らない とね」と言われた。 面接時に所長は、囲碁の話を 通じて、達也の人格を既に見 抜いていて、教習指導員にふ さわしい人材と判断した。十 数の面接者の中で、所長の御 眼鏡に叶った人材は達也一人 で有った。 教習指導員は、試験に合格出 来なかったり、試験に合格し て指導員として働くようにな っても、その仕事は、見た目 とは全然違い大変で辛い仕事 なので、会社を辞める人が多 いのが現実である。 そう言う観点を踏まえて所長 は、人柄、人格に共に優れて いた達也一人だけを採用した のである。 一方達也は、入社早々から事 前教養が始まり、教習指導員 になる為の知識と技術を学ぶ 事になり、9月には、指導員 養成講習、10月に教習指導 員試験を受ける事になった達 也は、強いプレッシャーを感 じながらも「ここまで来たか らには全力でやろう!」と強 い決心を胸に刻んでいた。 達也は、まだスタートライン にすら立っていない教習指導 員資格を取って初めてスター トラインに立つ事が出来るの である!

第6章

 

第7章へ つづく