出版業の倒産急増、利益も悪化傾向 ~ 存続に向けた書店との直取引、目指す姿と課題 ~ | TSRデータインサイト | 東京商工リサーチ

 

出版業界の厳しい現状が続くなか、出版社と書店の「直取引」が新たな流れとして広がり始めている。東京商工リサーチによれば、2026年1~7月の出版業の倒産は21件と前年同期比90.9%増加し、出版企業の最終利益も2021年度から4年間で41.8%減少している。 こうした状況では、出版社と書店が取次を介さず直接つながり、粗利を確保しようとする動きが出てくるのは当然ともいえる。

 

しかし、この流れを単純に「取次不要論」と捉えるのは危険ではないか。商流を短絡させれば、その分だけ中間コストを削減できる。これは出版業界に限らず、さまざまな業界で見られる手法である。一方で、これまで取次が担ってきた受発注、請求・精算、物流、在庫管理、返品処理などの業務は、決して消えてなくなるわけではない。直取引に移行すれば、その負担は出版社や書店側に移るだけである。実際、TSRも直取引の拡大によって出版社・書店の業務負担が増えることを課題として指摘している。

 

だからこそ、取次には今こそ「何を付加価値として提供するのか」が問われている。単に商品を右から左へ動かすだけなら、直取引によって存在感を失っていくのは避けられない。しかし、業界共通の受発注システム、在庫・販売データの分析、物流の共同化、返品削減、精算業務の効率化など、「一社ではできないこと」を担う存在になれば、取次の役割はむしろ大きくなる可能性がある。実際、日販も直取引の枠組みに参画し、従来のインフラやノウハウを活用して直取引を支える方向を模索している。

 

目先の粗利を増やすために商流をショートカットすること自体は、決して悪いことではない。ただし、それによって生じる業務やコストまで見通さなければ、砂上の楼閣になりかねない。短期的には出版社と書店双方にメリットがあっても、長期的に見れば業務負担が膨らみ、別の非効率を生み出す可能性があるからだ。

 

出版業界に必要なのは、取次を残すか、直取引にするかという二者択一ではない。直取引と従来の取引を適材適所で組み合わせ、その中で取次が「なくては困る機能」を提供できるかどうかである。取次が生き残る道は、従来の商流に固執することではなく、商流そのものを支える新しいインフラへと進化することにあるのではないだろうか。