アホが急に私の親に挨拶に行きたいと言い出した。





どうやら、友人にそう勧められたようだ。





なにやらその友人がとてもよい人で、悪夢の様に毎晩、寝る前になると私たちの結婚を心配してくれているらしい。


アホは私の両親に会っておらず、ニューヨークで入籍したもののそれは二人な間だけであって、日本では未婚なのだ。




ほんっっとに、影響されやすい。
人が言ったことには何でもうんうん、ほの通り!と従うアホである。いや、素直さである。



しかしまあ、いいタイミングなのかもしれない。
なかなか両親に会いたがる素振りを見せてこなかったので、これは神様がゴーサインを出しているかもしれない。





願わくば、両親がアホのことを好かんことを。






友人様々である。






しかし、よくよく聞いてみると、




その友人は一ヶ月ほど前に離婚したそうである。





なかなか助言に対して不安もあるが、




まず私たちの結婚生活よりも自分の身を案じて下さいと思う。




願わくば彼の身に幸せが訪れんことを。




涙がでるほど感動してしまった。






ようやく、しつけの成果がでてきた。






アホが、電話掛け直す、といった!





ほんまか!
と言っただけで、





うん、ちゃんと掛け直すから!
わかってるよ






と言い、五分後に掛け直してきたのだ。





もしこの場にアホがいたら、頭をぐしゃぐしゃに撫でて抱きしめて褒めまくってあげたかった。


ようやく、しつけの甲斐があったと思えた。




ちっぽけなことかもしれないがそれもできなかったのだ。




この気持ちは、初めて飼い犬が自分の名前を認識し、呼んだら来た時の喜びに似ている。





しかし。



喜びや期待を見事に裏切るのがアホである。


親戚が、結婚式の前日に婿と大げんかし、式を取りやめたいと駄々をこねたという話を祖母から聞いたのだが、



まさにそんなことが自分の身に起こっても容易に想像がつく。

私のことをいつも天国から地獄に突き落とし、地獄のまま放置され自力で這い上がる、
そんな生活が続いてきた。




今回のしつけの成果にも、安心できない。


できたと思った次の日に、トイレに失敗してマットをビチャビチャにするようなアホ犬だから。

懺悔しなければならないことがある。





アホに対して独占欲が湧きすぎているのかもしれない。


もちろん、支配したいなど思わない。


しかし、束縛はしすぎているかもしれない、、、









大切な記念日がある。








アホの30歳の誕生日だ。









アホの、新たなスタートの第一歩だし、それはケジメとしても祝うべきであると思っている。



そして、アホが東京生活の基盤を作り初めて一年。
下北沢の、六畳一間に引っ越してきた一年記念だ。


私にとっても大切な日である。








申し訳ないが、その日はアホにとっての一番のエンターテイナーになりたいのだ。





アホが人気者なのもわかっているが、、、













この日はアホを一人占めさせてもらうことにしよう。

申し訳ないが。

今、私はアホから解放され居心地のいい大阪へ帰ってきた。











まったく、思えば年末年始20日以上も一緒に過ごしていたものだ。

なかなか鬱々としたアホの気分が晴れず苦労した。


はあ、やっと解放された。














さみしい。









アホには一緒に居ると困らせられるが、一緒にいないともっと困らせられる。




アホには中毒性があるのだ。











アホは、まっすぐだ。
そして純粋だ。

もちろん悪口も言うし落ち込みもするし、人間らしい人間なのに
なぜこんなに純粋さを感じるのだろう。





今まで私が時間をともにしてきた人たちのことを考えた。


もちろん、大切な人たちだ。

でも、人間性から純粋さを強く感じた経験はなかった。




音楽とか、ダンスとか、英語に対する純粋さを持つ人たちはたくさんいたが。



近づけば近づくほど、黒い影が見えるのが人間だと思っていた。




それが悪いわけでなく、それが人間だと。

自分の根本も悪なんだろーな、と思いもっぱら性悪説を信じてきた。









うーーーん。







この離れたタイミングで、すごくアホの純粋なまっすぐさに気づかされた。
鬱陶しいくらいのまっすぐさで、真っ正面から向き合うのも避けたくなるようなエネルギーだ。





自分も、そういう風に生きれたら。









まっすぐに生きて、悩んでいる姿が羨ましくも感じる。


今、私には悩みという悩みがゼロだからだ。
ストレス完全フリーである。

確かに日々を楽しんでいるのだが、何か人生に対して怠けているような気もする。









結局、アホにはイライライライライライラさせられるが、


アホなしでは生きていけないのだ。


まったく情けない飼い主になってしまった。










もし、過去の自分に一言言えるなら、












心配するな。最高のパートナー見つけてるから、全力で失恋しろ!









そう言うだろう。











タイムマシンの記事を見ながら、ふとそう思った。


アホに会う前の過去に戻りたいことなんてまったく思わない。
これからアホとどういう未来を歩いていけるかが楽しみで仕方ない。


いいパートナー、というか飼い犬を得たものだ。






将来は一緒に宇宙に行こう。
お前は、世界初の宇宙犬になるんだ!





いんこうをならす





「嗚咽を漏らす」
を、アホはそう読んだ。






いんこうってなに?
と聞くと



ウーーーウーーーーとうなりはじめた。
どうやらそれがいんこうらしい。





はあ。


本当にこいつはアホやし犬やわ。





たまにはアホをしつけないと、と思い心を正す。




アホは、簡単なメールを送るのに30分以上もかかっていた。

昼寝を始める前に考え出し、起きてもまだ考えていたのには腹が立って仕方がなかった。



自分に計画性がない、といつも嘆いているわりには
計画ゼロではないか。

そもそも時間を管理しようという意志すら感じない。


お前はアホか。







そう叱った。







そしてその夜。







アホが探し物をしていた。

どうやら、メモ書きをした紙をなくしたらしい。


20分も探していた。




それって、どーしてもみつけないといけないものなのか

頭の中の情報をもう一度書き出すことはできないのかと言うと、

できる!!

と答えた。


なら、なぜすぐ書かないのか。
お前は時間を無駄にするプロか。
と言いながら、また書き出すのに時間をかけまくるのもわかっていたので
十分測ってやることにした。



十分で集中して終わらせ、待っといたげるから



そう言って、私はアホの横で行儀よく待ってあげた。


十分がたち、アホに知らせた。


終わった?
と。




アホは、無言でベッドに飛び込んだ。






はああああああ?!?!?

私はびっくりした。
誰のためにケツを叩いてやり、待っててやったのか。

労いの言葉ひとつもくれずベッドに飛び込むとは、失礼ではないか!


しかしもう犬だと割り切るしかなかった。

犬に礼儀を求める方が筋合いなのだ。







アホは、また聞いてきた。

他人の意見にうんうんって合わせることを何という?
と。



迎合する、って調べてみ。
と答えた。





出でこーへん。
そういいながらアホのさしだす画面を見ると、












ゲイ語をする






と表示されていた。





口に運んだお茶がふきだした。





これを、本気で一ミリも疑わずやってのけるのだ。


本当に、純粋さだけは尊敬の域だ。




いや本当にただのアホ犬なだけなのか。






はあ。
しつけも一苦労だ。



アホのさしだしたタオルがまた何ともいえない臭さだった。








アホ犬には妹がいる。


正直、私は妹さんのことをすごく尊敬している。

きづかいが上手で、人の気持ちを考えられる優しく美しい女性なのだ。


アホがこの縁をくれたことに、私は心底感謝している。



妹さんもアホと暮らしてきた過去から、アホがいかにアホであるかを知っている。

そのため、愚痴を言ってもわかってくれる。
兄を悪く言うことに対して少し罪悪感はあるが、それを笑って受け入れてくれる器のでかさも備えている人だ。


それにどれだけ救われていることか。
東京で仕事を始めるそうなので、その際には渋谷のチーズスタンドでお祝いしたいと思っている。



この年末に妹さんは東京へ遊びにきた。
しかしアホの都合があわず、晩御飯も初詣も一緒に行けなかった。


この役立たず、と思ったが、妹さんはアホのことを好きなのでアホ抜きで会っても悪いと思い遠慮した。






妹さんも大阪と東京の遠距離恋愛中である。






犬と。










話を聞けば聞くほど、うちのアホ犬と一緒なのだ。



言ったことはすぐ忘れる、会ったら尻尾振って喜んで、何か揉めたら
一緒に住めば変わる、と言って根本的な解決から目をそらす、など、、、



妹さんも彼のことを犬だと思って割り切っているそうだ。

飼い犬の方が賢いと言ってもいたが。



これは、もしかしたら世の女性にとって一般的なことなのかもしれない。

よく言われるように、男と女は別の生き物なのかもしれない。


犬と、人間なのだ。



そう思うと、世の女性の恋愛に関する苦しみが少し和らぐのではないかと真剣に思うようになった。

諦め、というか割り切る思いが必要なのだ。



犬には人間の言葉は百パーセントは伝わらない。

そこを、散歩や、スキンシップや、餌のやりとりでなんとか関係を築いていく。


あいつらはオーナーとしてしっかり見張ってないとすぐ首輪を外れて走り出す。

そして他の女に尻尾を振る。



何と罪深い生き物だ。


神様の設計ミスだと信じたい。



アホは散歩が趣味だ。


夜中が近づくと必ず近くのスーパーかコンビニへ行きたがる。

一日一回は外へ出たがる。


そして私を誘う。
飼い主がいないと散歩にいけないからな、といつもしぶしぶ付き合ってやる。



年越しの日、私たちは新島という東京の外れの島に友達に会いに行こうと計画した。

しかし、予算不足であえなく失敗した。



そしてしゃーなし家でいつも通りガキ使をみていた。
おもしろ荘が終わった頃に近くの神社にお参りに行くことにした。

3,40分の列を並んでお参りを済ませてから、おみくじを引き、神社をあとにした。


すると、下北沢の行きつけのカフェのオーナーに遭遇した。

数少ない私達の下北沢の友人である。


オーナーはいつも以上に高いテンションでアホに絡んだ。


そしてオーナー達は神社に向かい、私たちは家に向かった。


アホは


オーナーって犬みたいやなあ、、、


と呟いた。



どの口が言っているのか。
お前ほど犬に近い人間はいないとここに誓おう。





まあ、確かにオーナーはバセッドハウンドみたいな顔をしているが。




今年も、このアホに振り回されそうな予感しかしない。











今年一年の振り返りをした。

アホは、この一年何かと余裕がなかったと言った。


金がないからだ、と。


金がないのに色んなことをやりたがったり、ちゃんと貯金ができなかったと。



お前のせいだと言わんばかりに、何故か私に対して怒りをぶつけてきた。


いやいや、確かに沖縄には行った。
しかしそれは就活でだし、一人で行くと言ったではないか。

アホは、私の代わりに飛行機を予約してくれた。
それも就活の都合で時間があわなくなり、変更がきかず新しい便を予約することになった。


しかしその飛行機をカードで支払ったため、三、四ヶ月返済に苦しんだ。


確かに、私も悪かった。
払わせてしまった。

しかし結局その返済も私の実家からの仕送りで返しきったのだが。




アホの八つ当たりにはびっくりした。

お前がサラリーマンを辞めたからだろう、と。

役者になりたいと言い、しかしまだ稼げずコンビニ店員をやっているからだろう。

コンビニ店員が悪いわけではない。
職業に貴賎はないし、役者の夢を目指すことも意義のあることだ。


しかし、金がないのは当たり前だろう、自分で金の稼げる生活を手放したのではないか。

そのしわ寄せを、まだ学生の身である私に対して責め立てるなんてひどい話だ。



何より、私は貴重な学生生活の半分を東京にくることに費やしているというのに。

なんて言い様だ。



この四月から私は働き出す。

しかし、こいつには絶対私の金を触らせない。
全部自分でやらせようと決めた。



そう怒りを感じていると、
アホはテレビを見ながら


あ、村田製作所のCMや
友達働いてる
俺の友達金持ち多いからな~


と言っていた。



そんな誇るような友達がいるならその人たちに対して誇れるような自分になれ、
と新年早々ため息がでた。


片思いというものは、



とにかく辛い。





想えばおもうほど、相手がこっちを見ていないことが見て取れる。




あのドキドキは、確かに片思いにしかないが、

そのときめきはとてつもなくデリケートなもので、いつ傷つけられてしまうかわからない。



どこにいても何をしてても忘れられず、心が完全に支配されてしまう。
ほかの女の子と話しているのを見てしまった時には、胸が引き裂かれてしまう思いだ。







そして、アホ犬を思う。







アホのおかげで、もう一生片思いしなくていいのかと。




こんなにありがたいことはない。





大切にしなければ、アホでも。


あの苦しみからようやく解放されたのだ!


また、アホはまったく別の苦しみを私にもたらすわけだが。



アホはよく言ったものだ。

俺はブッダだ、と。


どういうことかと説明を聞いてみると、どうやら

自分は若くして、世間の色々なことを悟りすぎている。
性格がよすぎるし、何でも受け入れられる。
人が50年かかるところを、30年もかからず成し遂げてしまったのだ。

自分は前世で人間を一万回以上繰り返し、今回が最後の人間で、この人生が終わるとブッダになって輪廻から解脱する



ということらしい。



いくら、アホ犬に盲目に惚れ込んでいた時期といえどそれはどうかなと思っていた。



いま思いかえすと、本当にアホだ。




犬が何を言っている。


お前の前世は犬だ。そしてまだ犬だ。
見た目は人間だが、犬の前世が体から抜けていないではないか。

お前は、人間一回目だ!!!!



何が悟りすぎているのだ。
まったく逆境に弱いことこの上ない。

今回の舞台で役を降板させられたことを、本番が始まった今でさえ根に持っているくせに。

アホか。
そう、アホだ。



一つ、最近のアホのエピソードを書いておこう。

これは、その日の夜に記録したものをそのまま引用するので、私も気持ちが高ぶっており少々きつい物言いになってしまっていることを言っておこう。




それは、舞台の本番の前日。
犬は帰ってきた。
おかえりも言わず、手も洗わず、一目散に机に向かった。


なにやら、自分のキャラクターの設定を考えているようだった。



パートナーとしては、昨日まであんなに落ちこんでいてやる気がなかったところから復活したことを喜ばしくおもわねばならないのかもしれない。





が、







私はドン引きした。




今更何をやっているのかと。
キャラクターの設定考えるなんて台本もらった時にやることじゃないのかと。

何より、今までこいつがどれだけ練習時間を無駄にしてきたかが見て取れた。

前日の夜にこんなに焦って取り組んで。
何もしてこなかった証拠でしかない。
本来なら、明日のため、といつもより早めに床に就くべきなのではないか。



私の旦那って、こんなにカッコ悪かったのか、と思ってしまった。
惨めだった。哀れにも見えた。

そして、何より私がいい加減巻き込まれたくない、と思った。

役を降板させられたことを受け入れきれず、しかし高すぎるプライドに実力も経験も及ばず、そのプライドだけがどんどん肥大していって身動きがとれなくなって。

それはそれで、貫くわけでもなく

あいつは、直前になって焦りを感じ、悪あがきを始めた。


うまくいくだろうか。

うまくいくはずがない。


本来なら応援してやるべきだろう。
しかし、応援なんてできるわけがない。

グダグダ御託を並べて、マイナスのループを繰り返していた間になぜ少しでも努力しなかったのか。
疑問でしかない。


何の期待をかけることができようか。



マイナスの時に愚痴を聞かされ、プラスの時には邪魔するな、と言わんばかりの態度をとられ
とにかくこっちを巻き込むなと言いたくなるのもしょうがないのではないか。


恐ろしくドン引きした。
かっこ悪すぎた。
一時期の感情に振り回されるのはいいが、それに私を巻き込むな。

しかし、そこには私の弱さもあるのだろう。
もっとしっかり自分を保たねば。


あまりにも惨めなその姿に、私にはかけるべき声がわからなかった。

はあ、この舞台、わたしも見に行かないと行けないのかと思うと憂鬱になるほどに、
私はそのアホさ加減に冷めてしまった。




はあ、今思い返してもアホだ。


そして昨日はその初日が終わった。
なんとか乗り越えたようだった。



どうだった?明日はどう頑張る?
と聞くと



明日は出演者全員に挨拶する!!


と答えた。



アホかと。



そしていくつか掴みのギャグを考え出した。
唾を手につけて髪を真ん中で分ける仕草をしようとしていたが、とにかく気持ち悪くて見た人を地獄に陥れることは間違いなかった。


はあ。

何がブッダだ。

ブッダの愛馬のカンタカの方がよっぽど賢かったであろう。

しかし、気づいてしまった。



こんなアホと生涯添い遂げないといけないなんで、私はなんて業が深いのだと。

私はきっと前世で重い罪を犯したに違いない。

だから、今世は犬の見張り役になってしまったのだろう。


前世の私は一体何を犯したんだ。
ばかなことするんじゃない、と過去に戻って諭すことがどうにかできないだろうか。



しかしもう仕方がない、私の運命は決まっているのだ。

このアホ犬とともに、と。



来世の私を苦しめないように、
しっかりアホ犬の面倒を見切りたいと思っている。