私は禁煙をしている。
もうほぼ一年くらいは、もらって吸うこともなくなった。元々たくさん吸うほどでもないが、飲みの席でタバコがないのはなかなかさみしいものである。


そんな私だったが。


タバコが吸いたい。



タバコが恋しくてたまらない。

イライラした気持ちや、モヤモヤした気持ちが、煙とともにすーーっと身体から出て行くあの感覚がたまらない。



はあ。タバコが吸いたい。


アホと禁煙を約束した。
だがそんなことに何の効力もない。


問題は、ただタバコに400円も出せるほどの余裕がないということだけなのだ。

なぜか私はとても今経済的に困窮している。
年末までに仕上げなければならない課題もあり、なかなか働くことに時間を使えるわけでもない。


いいアイデアが浮かんだ。




カフェに行こう。



喫煙シートに座るのだ。
そうすれば、ただで煙を吸える。


私は居ても立ってもいられず、カフェに向かった。

副流煙を吸うために。



今は、シェアの時代だ。
タバコ一本を他人とシェアできるなんて、なんて素晴らしい世界だ。


そんなことを考えながら、私はタバコのニオイを夢中で吸い込みながらあったかいコーヒーをすすった。


あーーー貧乏くせえな、自分、と思いながら。



でもいいのだ、仲間はいつも貧乏くさかった。

特に貧乏で社会のはみ出し者だった、私にタバコを教えた仲間は今どうしているのだろう。


今はみんな就職したが、風俗とかギャンブルに金つかって、結局貧乏臭いんだろう。
アホ犬は本当にアホである。

しつけはゼロである。
いくら言っても聞かない。
暖簾に腕押しを体現したようなアホなのだ。


とゆうか言ったことをわかっていない。
飯はいるのか?
その言葉さえ理解できない。


いる、いらない
くらいいくら犬でも答えられると思うのだが。

私のラインは既読無視である。


そんな犬に情けをかける必要もないのではないか。
甘やかすのもよくない。こっちが飼い主で、立場が上ということを示さなくては。

こうやって、何だかんだ飯を作ってやっているから、アホは学ばないのだ。


十分以内に返信がこなければ、用意はしない。

荒技かもしれないが、そうでもしないとこっちの意思を伝えられない。

なあなあがよくないのだ。
断固とした態度をとらなくては。



しかし私自身、このブログに助けられている。

あのアホにはイライライライライライライライラさせられてどうしようもなかったが、
ブログのおかげで自分の気持ちを整理できる。


飼い主としてのレベルも、少し上がったのではないか。
今日は自分のために、自分の分だけカツ丼を作ろう。

あと五分で返信がなければ
あいつのカツ丼はなしだ。


作って無駄になるよりもよっぽどいい。


アホには持病がある。

歯が三本ないこと、内耳炎になりやすいこと、過敏性腸症候群など
ただでさえ生きていく上でハンデを抱えているにもかかわらず、
(それを上回るルックスで甘い汁をすすってきてもいるので相殺されている)


大きな精神疾患がある。



変わったことしたい病だ。



アホは変わったことをしたくてたまらない。
一時期フンドシが大好きだった。しかし滑っているのてやめさせた。

趣味は瞑想で、10日間の瞑想修業を三回も繰り返している。
お前は貴重な人生の一ヶ月をなんて無駄なことに費やしたんだと言いたい。
どうせアホのことだから、瞑想修業もネタ作りの一環に過ぎないはずだ。


しかし夜に光を放つ蛍光灯に群がる蛾のように、アホに惹かれて寄ってくる蛾も少なくはない。私たちははみ出し者だからだろう。はみ出し者界のテッペンが眩しくて仕方ないのだ。


アホは変わっているから、世間の記念日を素直に祝えない。
私は年中行事か大好きなのに、アホのせいで一緒に祝えない。


ひな祭りとか、クリスマスとか、お正月とか、カウントダウンとかしたいのに。


しかも、正式な記念日ではないが、私たちの関係が始まったのはクリスマスイブだというのに。(アホが働いていた日本居酒屋を辞め、カナダに瞑想に旅立った日である)



試しに、今年のクリスマスイブどう過ごす?

と聞いてみた。



靖国神社参拝しよう
と返ってきた。


キリスト様の誕生日を祝うくらいなら、ご先祖の英霊に手を合わすほうかいいのだろう。
アホの変わったことしたい病がまた発症している。



これはもう不治の病だな、と思いながら
そんなクリスマスイブもありかも、と思っている自分に、病気の感染力の高さを思い知った。


アホとはニューヨークで出会ったのだが、なかなか第一印象はよくなかった。
ある日本料理屋で新人として入ってきた私に、アホは声をかけた。


「俺、つよしです。よろしく!」


アホはなかなか(顔だけは)イケメンだ。そして、自分から挨拶してくる積極性、
これは今まで数々の女を寝取ってきたタダのチャラ男やな、と心の中で「つよし=ヤリチン」のレッテルを貼っていた。
そしてしばらく話すようになっても、そのイメージは離れなかった。

こいつ、3、4人同時にキープしてんやろ、と思っていた。


が、なぜか私はアホのことを尊敬するようになっていたのだ。
アホは、アホだから思い切りかいい。冬でも全裸になってしまう。
恥ずかしがりな自分には、そんな解放的な姿がうらやましく思えた。



そして、ニューヨークでiPhoneをなくした。
当時最先端のiPhone5で、大切な人たちとの記録が詰まった宝物だった。
日本との唯一の繋がりに思えていた。
ひどく悔やみ、しかしバイトにいくとアホがいた。


アホはいつものように、「調子どう?」と聞いた。
何やねん調子って、己はもっと具体的な質問できへんのかと思いながらもiPhoneをなくしたことを伝えた。

するとアホは、アホ特有の明るさで
「ええやん、また買ったら。物やねんから。誰か死ぬわけでもないし、やっぱ物はなくなったり壊れたりするねんて」
と言った。

私はひどく納得してしまった。


確かに。まあ、また買えばいっか。


私は物が好きで愛着も持つ方だが、なぜかすっと諦めきれた。
新しいアメリカ用のiPhoneを買おう、と目的をシフトし、二週間後により快適なアメリカ版iPhoneを700ドルで買った。


そのiPhoneを、今はアホが日本で使っている。



そして。今度はアホが携帯をなくした。
アメリカ版のiPhoneは電話機能がつかないため、ガラケーを別で持っていたのだがそれがなくなった。

アホは、まさにお気に入りのオモチャをなくした犬そのものだ。


もう全然元気がなく、四六時中携帯のことを考えている。
どこに置いてきたんや、新しいの買わな、と。


犬のくせに文明に振り回され哀れである。
本当に誰があんな偉そうにうちに説教してん、と思うが、
まあ犬に自分の身に同じことが起こるなんてこと想像できなかったであろうから
許すしかない。



しかし犬は新しいオモチャを買う気マンマンである。
別にメールさえあればいいと思うけどなあ、と自分の経験からは思うが、
文明に翻弄された犬にはちっとも届かない。



犬が人間の生活をしようとするからこうなるのである。
アホは、言った時間に帰ってこない。
大概遅くなる。

できたての飯を食わせてやろうと時間を逆算しているにもかかわらず、いつも遅れて帰ってくるため結局飯が冷めてしまう。



そんなことにもいちいち腹が立っていた。

しかし、こう思うことにした。
帰巣本能が強い犬種でよかった、と。


犬なのだから、自分で家に帰ってこれるだけすごいのだ。
聞いた話によると、柴犬など日本犬は帰巣本能が強いらしい。


だから、帰ってきたら
よしよし、よく帰ってきたな
と撫でまわしてあげることにした。


犬ならではの魅力も道にはたくさん落ちているのだろう。
枯葉で遊んだり、 匂いを調べたり、マーキングをしたり。



旦那を犬と思うことで、自分が楽になったように思う。


食べ終わった食器に水を張らない。とゆうか下げない。
お茶は飲んだらのみっぱなし、冷蔵庫に直さない。
トイレではドアをあけて用を足す、なぜ私がお前のクソの音で起こされなければいけないのか。
(1Kの部屋のため、ベッドからトイレまでの距離が非常に近い。)


仕方がない、犬なのだから。
何度言っても仕方がない。
尻をぬぐってやらなければ。
飼ったからには、責任をもって。




しかし、本当に無駄吠えがひどいのには悩まされる。
なぜなのか、本当にわからないが本人は歌がうまいと思っているのだ。

確かに声はでかい。笑うと、前を歩いている数人が振り返るくらいにはでかいし、大爆音のクラブでも平気で話すくらいに声はでかい。
何度かボイスレコーダーに録って聞かせたこともあるのだが、未だに声がでかい=歌がうまいが成り立つわけではないとわかっていないらしい。




本当にうるさい。無駄吠えは大概クソとセットなので、ダブルの騒音で起こされた朝は最悪の目覚めでしかない。



こればっかりはどうしつければいいのかわからない。
怒鳴っても無駄である。騒音を聞かされる身にもなってほしいが、あいにく犬にはそんな想像力はない。




そんな犬の夢は、歌詞をかき、曲を作り、オリジナルバンドを組むことである。

ギターのうまい友達を自分のちからで有名にしてやる、と意気込んでいるが、お前の歌声まずどーにかしないとファンつかねーぞ、と内心思っている。
はよまず自分が有名になれ俳優として、とも思っている。仕事自分でとってこい、と。
どれも決して言わないが。



銀杏ボーイズの「愛しておくれ」という歌を思い出した。



手紙を書こう 電話をかけよう
けれども僕は嘘をつくだろう
だからこうして歌うのさ 声のかぎり歌うのさ


あの嘘つき、ごまかすために馬鹿でかい声で歌ってやがったのか。
ひとりで、納得してしまった。

私のアホ犬は、「舞台の稽古」という名のしつけ教室に通っている。

先生は、二丁拳銃の小堀さん。関西では名高いトレーナー(芸人、今回は演出家)だ。



しかし、そんなトレ―ナーのしつけが甘いわけがない。
いつもガルガルとアホは吠えているが、トレーナーは厳しく、容赦なくお預けをさせる。
また、ダメなものはダメ、とはっきり言う。くぅ~んと鼻を鳴らしてみたって、お菓子をくれることもない。


更に周りのワンちゃんたちが優秀なのだ。
うまくしつけられており、トレーナーの顔色を見ながらうまく芸を披露する。
彼らは、エサを前にしても40分は我慢できる。うちのアホは2秒だ。


そんな優秀な役者さんたちにもなかなかなじめず、苦労しているらしい。
いつもくたくたになって帰ってくる。


今までアホのことを甘やかしすぎたかな、と思う反面非常によい機会である。


しかし、アホ犬はアホだからこそエネルギーはすごいのだ。
本番には、そのエネルギーが爆発するのだろう。
うまくいくとわかっているので、わたしは何も言わず背中を撫でてやるだけにしている。

私がしつけ(役作り)の手伝いをしてやってもいいが、あえて一人でやらせてみせようと思っている。飼い主には飼い主の人間の生活があるのだ、忙しいのだ。


たとえ本番でミスしても、その姿がまた愛らしいというのが本音でもある。うまくいくと調子にのって自分が群れで一番だ!と勘違いする節もあるので今がちょうどいい。


でも、やっぱり

頑張れ、アホ犬!



私には彼氏がいる。正しく言うと旦那だ。
二年前、ニューヨークで出会い、勢いでそこで籍を入れて帰ってきた。
日本に帰ってきてから1年、私は大阪、彼は東京の遠距離恋愛を続けている。



遠距離恋愛にとって何よりも大切なことはお互いの信頼だ。



「お互いのこと信じられへんと、続かへんよ」
同じように遠距離恋愛で悩む自分の妹に、彼はそう説いていた。さすがだな、この人でよかったな、と愚かな子羊であった私は傍でうんうん、と聞いていた。




ところがしかし。
二年間かけて築いてきたと思っていた信頼が崩れ去ったのだ。




あのアホの携帯のサムネイルから、AVの履歴が出てきたのだ。
アホは、
「俺は中学の時にAVなんて卒業した。他の女に性欲なんて持たへんし、二度とみることはない」
そうなんども言っていたのだ。

しかし、ところがどうだ。ちょっと検索させて、とスマホのブラウザを開くと焦り出すではないか。



私は、死ぬほどショックだった。何より、嘘をつかれていたことに対して。

「俺はAVが好きとだ!」と公言されていたら幾分ましだったであろう。
二年間も、隠されて嘘をつかれていたことに、今までの信頼が秒速の速さで消えていった。
二人の間に隠し事などないと信じていた自分が愚かで、かわいそうで仕方なかった。

こんなことなら浮気を隠しているかもわからないし、何より他の女のセックスをみて性欲を解消していたなんて、女として妻としてこんなに屈辱的なことはない。



私は潮時を感じたが、結局踏みきれず和解することとなった。
もう二度とAVは見ない。離れている時はより一層お互いのことを考え、思いやり、なるべくお互いの状況を把握できるよう努力する。



そう約束し、私は大阪に帰った。





しかし。
そんな大口論から1週間もたたないうちに。
アホはやらかした。


「電車降りたら電話する」、10分かからない乗車時間のはずなのに、30分経っても電話がこない。
業を煮やし「もう寝ていい?」というと、その10分後に「いいよ」と返ってきた。


これのどこにおもいやりを感じられようか。何か理由があったとして、なぜ私に何も言わなかったのか。30分以上も手持ち無沙汰で待たされる気持ちが理解できないのか?
確かにあのアホは決定的に想像力に欠けているが。

アドバイスをしてもうんうん、と聞きながら守らない。お酒がお互い弱いため飲み過ぎないよう制限を設けているにも関わらず制限以上の酒を飲み、ヘラヘラと笑っている。

私はブチ切れた。こんなにもアホだったのかと。
1週間も経たずに約束を忘れてしまうのかと。ただ、私は誠意を見せてほしかっただけなのに。



そう言うと、アホは
「人は急に変われるもんじゃない。自分だって何回言っても部屋片付けへんのと一緒や」
と言い放った。


そうか、知らなかった。私が部屋を散らかす度に信頼を裏切られた気持ちになり、涙があふれ、ああやっぱりこの人は真剣な付き合いが出来ない人なのか、と思っていたのか。

それなら、4月から一緒に住む話ももうなしだ。そんなに私が傷つけていたのなら、一緒にいる必要もない。私は家を探そうと、夜行バスで東京に向かった。




朝六時半、アホはバス停で待っていた。
私を見つけた瞬間とびついてきた。寂しかったのだと。

とにかく疲れているので寝かせてくれ、というとすりよってきた。
いくらふりほどいても、しつこく身体を寄せてきた。



こいつは、犬だ。



そう思った。
あんなに私が怒ったにも関わらず、しっぽをちぎれんばかりに振っている。

しかしそう思えば納得できた。
ああ、だから細かく人の気もちを汲み取ったりはできないわ。言葉での深いコミュニケーションはとれない。記憶はすぐに飛び、話も集中して聞けない。
いっつも(忘れ物をして)走り回り、たらふく食べ、クソをして、寝るのが仕事なのだ。

たとえ怒らせても、飼い主には従順さを見せようとする。


このアホ犬、どうにかしつけないと。
この先一緒に生きていけないぞ、そう思った。

と思うと同時に、私は犬に対して求めすぎていたのだ、と思うと気持ちがすーっと落ち着いていった。
いっぱい撫でてやって、散歩につれていってやって、エサを与え、一緒に寝ればいい。そううすれば幾分かのあたたかさや笑いをくれるのだ。



というわけで、今日、私の旦那は犬になった。

これからこのアホ犬のしつけ奮闘記を始めたいと思う。




しかし、もし約束を破ってまたAVを見たり、浮気するようなことがあれば
容赦なく保健所にブチ込んでやろうと思っている。