有川浩 著   植物図鑑 


この本は 語学留学した台湾から帰国したばかりの
今年(2017年) 春に買った小説


実は 別の小説を買うつもりで書店に行ったものの 手に取ってみると 何か違うかも…と思い

別の本を眺めて コレ!と即買いしたのが この植物図鑑


巻末の「この本が図鑑のコーナーに並ぶケースが出る可能性に一票投じてみんとする」
という 著者によるあとがきに反して 単行本のコーナーに 平積みしてあった


なるほど…最初の6ページには ツクシ,タンポポ,ノビル 等々
道端で見られる植物の カラー写真が載っている


“巻末特別付録”として その植物を使って主人公イツキが作ったレシピまで載っている
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この本が 私の目に留まったのは きっとその 道端で見られる植物少なからずも興味があったからだろう


この小説は今の所 私の一番のお気に入り


         
 

冒頭は 前回ご紹介した『君の膵臓をたべたい』と同じく 後半の場面から始まる



主人公のOL さやかは 真夏日のある日 気心知れた上司と 外回りしているカバン


そこで偶然咲き誇っていた 見覚えのある小花を見つけた事から

さやかが以前 イツキという男から 植物の名前を教え込まれ
そして彼は 突然消えた 事が提示される


その後物語は 1年前の2月中旬
二人が出会う場面へと遡る
  
        

その夜 さやかが酔って帰宅すると 自宅マンション前で行き倒れている男を見つけて 拾う

なぁ〜んだ!『きみはペット』と同じ
と思いつつ 読み進める
       
        

リュックを背負った見てくれの良いその男にさやかが声をかけると
「お嬢さん、よかったら俺を拾ってくれませんか
咬みません。躾のできたよい子です」
と言われて 拾うのである


女性の一人暮らしの部屋に 見ず知らずの男を上げるとは 危険極まりないのだが

本当に躾のよい その男は 一泊のお礼に 翌朝あり合わせで朝食を作りさやかを感動させる


胃袋をわしづかみされ手放したく なくなった さやかは
(一般的には 女性が男性の胃袋を…だけど そこは小説!という事で)

彼をハウスキーパーとして住まわせる事を条件に そこから二人の共同生活が始まる
 
       

彼の名前は「樹木の と書いてイツキ

さやかが知らされた 彼の個人情報は それだけ

苗字も年齢も どこから来たのかも イツキは言いたくなさそうなので さやかは無理に訊かない


料理は全くダメなOL さやか
家事万能のハウスキーパー イツキ


OLに拾われて ひたすら彼女の帰宅を待つ美少年の物語
『きみはペット』とは ここから違ってくる

       

さやかとイツキが同居を始めて1ヵ月が過ぎた 3月中旬には
さやかはイツキを 異性として意識している

けれどイツキは ごく理性的に 契約通りのルームシェアをしている同居人
としか さやかの目には映らない


ただ イツキの濃(こま)やかな言動から 大事にされていることは 理解している


この頃から イツキは自転車で10分ほどのコンビニで 平日深夜のバイトを始める


平日は さやかが仕事から帰って 日付の変わる頃に イツキはバイトに出かけ

翌朝さやかは 予めイツキが用意してくれた朝食をとっている頃 イツキは帰ってくる


イツキはわざわざ さやかとの生活時間帯を合わせないようにしているのは 私にも解る!


そして 二人の休日
イツキが作ったブランチを食べ終わると イツキはさやかを散歩に誘う


運動嫌いなさやかは イツキから近所の川に行くと 楽しくてお得な事がある
と言われて シブシブ付き合う事にする


この散歩が 二人の食卓にのぼる 最初の食材集めとなる


河原で見つけたのは フキノトウ,フキ,ツクシ

まずイツキは フキノトウの写真を撮り始めカメラキラキラ
それから植物の採り方を さやかに教えながら 二人で食材集め


イツキは その下処理の仕方や 調理方法に至るまで 完璧

イツキって 何者なの?


採って来た食材は 天ぷらや炒め物,味噌汁の薬味に使ったり
採り過ぎたフキノトウは「ばっけ味噌にでもしてみるか?」

って…ばっけ味噌とは 何でしょイツキさん


このイツキという男は 一体何者なのだろう?と思いながら
(さやかも 私も)

その後も二人はこの散歩を狩り と呼び
晴れた週末には自転車で季節の食材を集めに出かけては 持ち帰って 調理するのである

                      

この週末を過ごす 二人の様子が とても楽しそうで 心温まる

私もそんな生活 してみたいわ~

       

3月末には 菜の花と同じように使える セイヨウカラシナ

スコップで掘るのが大変な 根の先が玉ねぎのようになっている ノビル


河原が花の絨毯になった季節には

いつものように イツキは撮影しながらカメラ花の名前をさやかに教え

花かんむり編むのが夢と言う さやかに 編み方を教え 手伝ってくれる


さやかが 花かんむりを編む間に イツキが採ったのは

タンポポ,イヌガラシ,スカシタゴボウ
(タンポポも 食べられる!)

       

季節の移り変わりと共に 獲物も変わり
クレソンノイチゴアップルミントヨモギ…etc.

        

夏になると 狩のシーズンは終わり…

ハナミズキに赤い実がつく 秋になる

        

ハナミズキの葉も落ちて コートが必要になったある日
さやかが帰宅すると 部屋は真っ暗


メール「ごめん またいつか」と書き置きを残して イツキは突然姿を消す


他に イツキが残した物は
花かんむりを頭に乗せたり ノイチゴを摘む さやかの写真
それまで二人の食卓に上った料理の イツキの手書きレシピノート


その後 さやかは何度も大泣きしながら
それでも諦めず 春になれば イツキと過ごした季節を 同じように巡る


一人で狩りに出かけ一人でイツキのレシピを見ながら一年前と同じ料理を作る

上手く出来なくても それなりに努力するさやか


もしも私だったら…耐えきれず 引っ越すかもしれない
健気に頑張るさやかの姿に こっちが涙出てくる

さやかに何も言わず 突然出て行くなんて…イツキサイテー

       

夏が来て 冒頭の 上司と外回りの場面に戻る

…と ある日 さやかの部屋の合い鍵とメッセージが入った書留がメールイツキから届く


メッセージには「ごめん 待たなくていいです」


大泣きし終えると 今度は待ちたいだけ待とう!と割り切って考える さやか…

読み手は 益々辛くなる


                     


この小説の 各章のタイトルは
その場面毎に出てくる 植物の名前と
学名と思われる 名称も記載されていて
著者の意図通り 一見植物図鑑にも見える所が面白い



物語の内容は
前半は さやかイツキ散策食材集めと調理と食事がとても幸せそう


イツキは さやかにお弁当まで持たせるスーパー ハウスキーパーなので
さやかの会社でのエピソードも 随所に見られる


イツキのバイト先のコンビニでも ある事がきっかけで さやかが訪れ 偶然イツキの苗字を知る事となるエピソードがある


反面 後半 イツキが突然姿を消してからは とても辛く さやかが一人で季節を巡る場面は 切ない


そして最後には イツキが突然姿を消した理由や
彼が一体何者なのか という疑問が明かされるのだが…



この物語が 一旦終了した後には
『カーテンコール』と題したストーリーが 2つ追加されている


の1つ目『ゴゴサンジ』は 
『植物図鑑』のその後のストーリーが さやかの目線で書かれている


2つ目の『午後三時』では さやかの家を出たイツキが その後どこで 何をしているのか という場面が
新しい登場人物の目線で描かれている


『午後三時』を読むと イツキも苦しんでいる様子が分かるけれど

ある日突然 出て行かれたさやかの寂しさや悲しみ 苦しみは 耐え難いものがある

トラウマになっても 不思議ではない

きっと私でも そうなるだろう

イツキがさやかを どれだけ傷つけたのか…


『カーテンコール』を読み終えると 読み手(わたし)のイツキへの腹立たしさも 和らいでいく



以前から私が気に入っている 春になると道端で見かける 小さなピンク色の花

歩く植物図鑑 (イツキ)さんのお陰で 知る事ができた 感謝

その名はネジバナ(見たまんま!)


最後に
この本を読み終えて 最初に私が作ったのは さやかでも作れた『フキの混ぜごはん』

巻末の『イツキの道草レシピ』に載っているので お試しアレ

私の過去記事  “ふき”の混ぜご飯


あ…これでホントに最後
この感想文を書き始めたのは 今年(2017年)7月30日

なのに もう10月も 後半に突入

書き終えるまで 3ヵ月近く かかってしまった
文章も ちょっと長過ぎた‼︎


今 ウチの近くにある 街路樹のハナミズキは 赤い実を付けている

もうすぐイツキが 姿を消す季節

行かないで〜〜