・異常気象の科学(今田由紀子著、講談社ブルーバックス、2026年6月20日第1刷発行、1200円+税金)

・令和8年8月千葉豪雨の凄まじさに衝撃を受け、近所の本屋さんの店頭で思わず手に取った一冊です。著者は地球温暖化が異常気象の発生確率や強度に及ぼす影響を定量的に割り出す「イベント・アトリビューション」という手法を駆使した研究で知られ、今年の猿橋賞を受賞した気鋭の科学者だそうです。先端的な仕事を現役でしているだけに、わかりにくいと感じるところもありましたが、全体として気象学の基礎から説き起こしていて、興味深い読み物になっていると思います。

 以下、印象深く感じたことをことを――。

・日本の平均気温の上昇速度は世界平均の2倍:これは常識に属するデータなのでしょうが、改めて不気味に感じました。ただ、この原因についての本書の説明は大雑把で、いささかがっかり

・1934年の室戸や1945年の枕崎、1959年の伊勢湾に匹敵する強力な台風が近年は日本に上陸していない:これは「台風研究の業界」(!)でミステリーになっているとのこと

・複合災害という言葉:複数の自然災害が同時または短い時間差で起きて被害が膨らむことで、近年、国際的に浸透しているそうです。熊本や能登を連想したのですが、世界的にも広がっていることには驚きました。

・「異常気象」とか「平年並み」の定義は変動する:確かに、夏の関東ではいまや真夏日は「平年並み」となりつつあるように感じます。そのうちに猛暑日も平年並みになるのでしょうか

・「湿ったフェーン」と「乾いたフェーン」:言われてみればその通り、の物理学的解説が胸にストンと落ちました

・2種類の高気圧:特に温暖高気圧とハドレー循環の関係は面白いです

・偏西風と2種類のジェット気流:風の影響力に感動です

・2段重ねの高気圧:PJパターン+チベット高気圧~中東や北大西洋からの影響が及ぶこともあるとか。今更ながら地球は一つの星なのだと思い至りました

・貿易風とウォーカー循環:風って凄い!

・ビャークネス・フィードバック:エルニーニョやラニーニャをもたらすメカニズムの面白さ

・エルニーニョ・南方振動現象(ENSO):気象は奥深いですねえ

・海洋熱波:黒潮の蛇行によるものがあるとのこと。世界的にブロブの懸念。一方でコールド・ブロブもあるらしいです

・水蒸気は温暖化ガス:なるほど

・潜熱、凝結熱:科学の面白さを感じさせる現象です

・過去120年間の日本の年間降水量に長期的な変化の傾向は見られない:気温とは違うわけです

・ただ、極端な大雨の日数は増え、一方で無降水日も増えた:極端化が進行している、というわけでしょう

 

 目の覚めるようなデータや視点が紹介されているわけではありませんが、気象研究の面白さや奥深さを感じられて、楽しく読めました。まあ、他国の石油資源を実質的に武力で奪い取ったあげく「ガソリンの値段は下がる」と嘯いている(嘘吹いている?)某国の大統領のような気候変動否定論者からすれば、本書のような仕事はウォークの陰謀か左派の妄想だということになるのでしょう。彼のお仲間は世界中に随分といるようですし、力を持ってもいるようです。温暖化ガスの排出抑制はなかなか進まず、気候変動はますます激烈になっていき、異常気象もどんどん深刻になっていくのでしょう。結果として、気象学者さんたちの仕事はますます繁盛していくのかもしれません。