特別編ロジェグルー：ヴューカルヴァドスデュペイドージュ D-Day 50周年

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol. 78

Distillati&Liquori di Gualtiero Marchesi

Roger Groult Vieux Calvados du Pays d'Auge D day 50th Anniversary 1944 - 1994

今回はマルケージのワゴンから一本ご紹介しましょう。特別仕様のカルヴァドスです。

カルヴァドスの最上級品を産出するベイ・ドージュ地区のほぼ中央、オルベック村クロ・ド・ラ・コルヴァニェールに、1975年に3代目のRoger Groultにより設立されました。1860年に彼の祖父Pierre Groultがシードルとオードヴィーの生産を始めた事が最初です。

カルヴァドスを産するノルマンディー地方は、第二次世界大戦時のノルマンディー上陸作戦の場所としても記憶されています。Roger Groultも手榴弾により負傷した経験があり、更に農場が独軍に接収されていたという歴史もあります。この地域は1944年6月6日の作戦開始日（Ｄ-day）から8月22日の連合軍による解放の日までの間、激戦の場所となったのでした。

その上陸作戦と村の解放を記念して造られた特別醸造品がこれです。ラベルデザインは古いフランスの雑誌から借用した手描きのイラストで、史上最大の作戦に参加した連合国を示しています。

中身は抜群の旨さ。約30種6000本のリンゴ樹から収穫されるリンゴを原料とします。

リンゴの種類は

Antoinette, Frequin Rouge, Bisquet, Moulin à Vent＝苦味と苦甘味の味わい：70%、

Bedan, Noël des Champs＝甘味：20%、

Rambaud, René Martin＝酸味：10%。

１年に1回の製造、収穫量年平均600トンのリンゴから420,000リットルの原液を絞ります。単式で蒸留したアルコール度30%の原酒をオーク樽で数ヶ月熟成させた後に70%まで再留し、再びオーク樽で熟成させるという昔ながらの製法を用いますが、各蒸留はヘッドとテールを除いた真ん中部分のみ使用します。

熟成には350以上ある旧樽（樽齢100年物もあり）を使用しますが、表記熟成期間は全て最も若いベース原酒を表しており、ベースには必ずそれ以上の古酒を含めるようにしています。最後にろ過無しで瓶詰めしています。当時は1994年リリースの50周年記念ボトルを使用していました。写真で確認できますが、ベースはVénérable：18年物です。その他にノーマルラベルの15年物も添付しました。

その後の2004年には60周年記念ボトル(詳細分からず)が、2014年には70周年記念ボトル（1944年6月6日に決行された史上最大の作戦に因んで1944本限定生産、最低熟成年数6年）が生産されています。

映画好きの私にはノルマンディー＝『史上最大の作戦』『最前線物語』『プライベート・ライアン』の印象が強い。子供の頃は単純に勇ましい様に大喜びしながら鑑賞していましたが、今は複雑な気持ちですね。このボトルをマルケージでサービスする時、これを供する私（日本人）、その場所（イタリア・マルケージ）、所望するお客様（圧倒的にドイツ系のゲストが多い）と、奇しくも先の大戦における敗戦三国が揃うのですが、その時にはちょっとだけ神妙な面持ちでお客様と語り合いました。美味い料理と酒を愉しむ事が出来る今に感謝しつつ、決して過ちを繰り返すまいと。

カルヴァドスやシードルは陽気で愉快なお酒なのですが、このボトルはちょっと特別かな。品質・中身だけを考えれば、美味さを追求すれば、他にも沢山の名カルヴァドスがありますが、ちょっと格別な想いを持たせる物はなかなかありませんからね。ご年配の方の中には大戦時の事をお話しされる方も多くいらっしゃり、このラベルを見る度に、そんな語らいや、映画『史上最大の作戦』の中で最後の最後に銃弾に倒れるニュートン大佐（エディ・アルバート）を想い出します。

世界が平和でありますように。

この項　了。

Roger Groult Vieux Calvados du Pays d'Auge D day 50th Anniversary 1944 - 1994

ロジェグルー：ヴューカルヴァドスデュペイドージュ D-Day 50周年