アンティノリ:ティニャネッロ 1983 その2 | 古きイタリアワインの魅力を読み解く

古きイタリアワインの魅力を読み解く

イタリアンワインガイド ガンベロ・ロッソ 1988-1989
イタリアワイン界に多大な影響を与えるガンベロ・ロッソ Gambero Rossoですが、この初期(1988や1989当時)のレアなイタリアワインと古酒の数々を、掘り下げて解説します。

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol.63

Antinori Tignanello 1983 その2

 

Tignanello1983の続きです。2019年11月18~20日のTignanello1982も併せてご覧ください。

 

Tignanelloの主原料ブドウが生産されるTenuta Tignanello(319h)内にはVigneto Tignanello(ティニャネッロ畑)の他にVigneto Solaia(ソライア畑)があり、他にVinsanto用Malvasia&Trebbianoが植えられた畑があります。

Tenuta Tignanelloは、70年代初頭からAntinoriにおける研究所的な役割を課せられており、外国品種の栽培や様々な栽培方法を試みる実験場所となりますが、その成果は皆様ご存知の通り。大成功を収め、Solaiaと共にTignanelloはイタリアを代表する赤の一本となりました。

AntinoriのHPには、『70年代、Tenuta Tignanelloは、Antinoriワインの各種実験の為の「実験室」の様な存在であり、新たな栽培技術・醸造技術と、カベルネ・ソーヴィニヨンやカベルネ・フランの様な新しいブドウ品種の導入の場であった』と書かれています。前回も書いた通り、1971年のエミール・ペイノーの関与が大きく影響を及ぼしました。極端に言えばTenuta Tignanelloはボルドーのシャトーを目指したという事です。新技術の導入、マーケティングとブランディング、大量生産ラインの確立、そして現在の有り様。Tignanelloに漂うボルドーワインぽい雰囲気は、ワインの個性のみでは無く、生産の概念からそれをお手本としているのだから、当然の事ですね。AntinoriがあっさりとオリジンのChiantiのイメージを払拭出来たのは、元来Chianti生産者としてのイメージが弱く、Antinori一族は本拠地Firenze住まいが多い事も大きい要因です。現地での活動と居住日数が少なく、Chiantiという土地への依存度・固執度が低い事が理由でしょう。

 

現在のアンティノリは26代目、三人の娘さんがしっかりと引き継いで経営を続けています。Albieraが社長として、AlessiaがAntinori Art Project担当、AllegraがCantinetta Antinoriを中心とした飲食店部門を担当しています。2008年にTenuta Tignanello建物をリニューアルし、他地方のカンティーナもまずまずの経営状態です。

但し、Antinoriの悩みが二つ。

一つ目がインターネット。Antinoriほど大企業でさえも未だネットに対応できず。データベース化が遅れ、過去の作品データが霧散し記録となっていない事はほとんど。その販売方法はインポーターやエージェントという専門知識を有した者を介しての販売に慣れており、そのスピードではインターネットを多用する他社のスピードに負けてしまう事。或いは人的な力が届かない場所には商品を供給出来ないという空白地帯が出来てしまうという事ですね。特にECでの消費に陰りが見えてきた昨今、販売地域を拡大しようとしても従来型のBtoBだけでは販売出来ない地域が大きくなってきたという切実な問題です。ネットを最大限に利用したBtoBとBtoCを行うべきですが、まだまだ使いこなせないと現当主のAlbieraの談話にありました。

 

そして、海外戦略。2006年から『カスク23』で有名なカリフォルニアの名門・スタッグス・リープ・ワイン・セラーズを、(コルソラーレでジョイントした)サン・ミッシェルと共同経営していますが、まだ使いこなせていないかな。スタッグス・リープ・ワイン・セラーズは2014年の地震、2017年と2018年のカリフォルニア山火事で打撃を受けました。商売上手なAntinoriの事、かつてはGajaでさえもびびった巨大な商圏を誇る米国で、苦難に遭った名門ワイナリーの舵取りを巧く行えるかどうか?

 

イタリアワインブランディングの一環として、昨今の大手生産者が取り組み始めた事がワイナリー見学の商品化ですね、イタリアでも積極的に取り組む生産者(Antinori,Ceretto,Lungarotti等)と全く行わない生産者(Gaja、Anselmi等)に分かれていますが、この分野は、私が在伊した頃とは比べ物にならぬ程活性化しており、今や一大観光産業となりつつあります。大きな駐車場を設け、各種カンティーナ見学プランを組み有料化し、販売店も設け、更には自社商品をたっぷり堪能できるレストランまで。自らの口で商品を説明し、商品価値を伝え、消費を促し、販売も行うというこのやり方は米国に倣った方法ですが、元来観光産業が国の生業の一つでもあるイタリアの事、私は案外悪くないと思っています。

 

ワインビジネスも新時代へ。Antinoriのみならず、全てのワイナリーが生き残りをかけて必死に工夫を凝らすようになりました。皆のお手並み拝見です。

 

この項 了。

アンティノリ カンティーナ ワイナリー 場所

アンティノリ ワイナリー内

アンティノリ ワイナリー内 レストラン

アンティノリ ワイナリー内 ショップ