特別編:逸品 ベッラヴィスタ:ヴェンデンミア ストリカ 1995 | 古きイタリアワインの魅力を読み解く

古きイタリアワインの魅力を読み解く

イタリアンワインガイド ガンベロ・ロッソ 1988-1989
イタリアワイン界に多大な影響を与えるガンベロ・ロッソ Gambero Rossoですが、この初期(1988や1989当時)のレアなイタリアワインと古酒の数々を、掘り下げて解説します。

Vini d'Italia 1989 Gambero Rosso Vol.09

特別編;知られざる逸品

Bellavista- Terre di Franciacorta Bianco Vendemmia Storica 1995

 

今回は、今は幻となったイタリアワインの逸品(たまに珍品)をご紹介します。イタリアワイン成長のうねりの中で生まれ、且つTreBicchieriを獲得せずとも歴史に残る逸品にスポットを当てようという試みが今回の主旨です。

第1回は我が故郷・Bellavistaからの一本。

 

Bellavista-Terre di Franciacorta Bianco Vendemmia Storica 1995

スティルワインの白。当時生産していたTerre di Franciacorta Bianco(Cultefranca)と同一ボトル、同一エティケッタ。但し、エティケッタ下部にVendemmia Storicaとは何ぞや、とのイタリア語による解説付き。

知る限り1995のみ生産。

 

1996年のとある日、Bellavistaの当主であるVittorio Moretti自らがマルケージにワインをぶらさげ持参します。

『ァズーロー(彼の発音まま)、貴腐ワインの辛口が出来たぞ、めちゃくちゃ美味いぞ、是非使ってくれ』

1995年夏にL’Albereta内のGualtiero Marchesi部門がMorettiの資本から外れて独立し、Morettiと我々レストランスタッフとの従属関係が解消されますが、以降もVittorioがふらっと来店する事は日常茶飯事でした(一度は急にパヴァロッティを連れてきた)。

このBellavista歴史上初の辛口貴腐ワインをオフィシャルリリース前にお客様の感想が聞きたいという事で、限定生産(生産本数分からず)にも関わらず、私が大量にもらい受けます。

 

実は当時、L’Alberetaの近くにVittorioが大切に育てていたPicolitの畑があり、あわよくばそこに貴腐菌が付かないかと毎年収穫時期を工夫していたのです。私がマルケージ在職中にご来店されたお客様の中には、Uccellandaの瓶入りにも関わらずエティケッタがついていない白ワインをお召し上がりになられた方も多かったはず。実はそれがVittorio秘蔵のPicolit Vendemmia Tardiva(若干薄甘口)だったのです。

当時から、特に扱いが難しいワインに目が無く、更にワインであれば何でも売ってしまっていた私の事、エティケッタ無しの非流通品のPicolitまで嬉々として売ってしまう私を見て、Vittorioはこれも売って反応を教えろと持参したのです。造った理由は単純『一度造ってみたかった。ずっと貴腐が来るのを待ってたんだ。全ては8~9月の天候のおかげ。、9月20日の夜に生産を決めたんだ』との事。

 

当時貴腐白の辛口仕立ては、SiciliaのChardonnay Regaleali Botrytis Cinerea1991の発表とそれに対するLuca Maroniの激賞が世間を騒がせていた頃です。Regalealiがリリースしたそれは、16℃という高アルコール、超攻撃的な白でしたが、運よくそれを購入し飲んであっけにとられていた私は(因みにTasca d’Almeritaは翌年も貴腐菌を狙うが来ず、Chardonnay Vendemmia Tardiva1992をリリースします。これまた凄まじい)、自分なりのRegalealiとBellavistaの感想と、更にBellavista Vendemmia Storicaをお客様にご提供した時の感想をVittorioとMattia Vezzolaに伝えます。

 

『素晴らしい商品化』『美味い。是非次回も注文して楽しみたい』『マルケージの名物Insalata Nuova ≪Alma≫やStravaganza Marchesianaと一緒に楽しみたい』『Regaleali・Chardonnay Botrytisほど過剰でなく、全てが程良い加減』『店のストックがあるだけ買う、幾らだ』という肯定的な意見と、『何故通常の白と同一瓶で同エティケッタなのか?』『下部に書かれたサブエティケッタは1995が良い年という理が書いてあるだけと思った。見ただけではこれが特殊なVT辛口とは想像できず、勘違いした』『頭が痛くなる高アルコール。ワインでは無く、スピリッツの類では無いか』『白ワインとしては全てにおいて過剰である』等々。

 

90年代はほぼずっとイタリアにいた私。これが日本に輸入・紹介され話題になったのかどうかは知りませんが、イタリアではなかなかの話題となりました。

但し、元来貴腐ブドウの仕込みを本職としていないBellavista。貴腐菌がつくまでの忍耐とその後の労力が余りにも多大・膨大な為に、今後の継続的な生産は無理と判断、1995のみの単年生産、後は幻となった次第。

その後、貴腐が付いたとの話を聞いた覚えはありません。RegalealiのChardonnayと共に伝説の一本となりました。

 

Bellavistaの畑写真を何枚か載せました。当時のVittorioとの約束『ァズーロー(彼の発音まま)、Picolit畑の場所は内緒にしといてくれ。あの葡萄は生で食っても美味いんだ、皆に摘ままれたくないからな』。という事で、どれがその写真か、探して見て下さい。

 

この項 了。