ルチアーノ サンドローネ:バローロ その2 | 古きイタリアワインの魅力を読み解く

古きイタリアワインの魅力を読み解く

イタリアンワインガイド ガンベロ・ロッソ 1988-1989
イタリアワイン界に多大な影響を与えるガンベロ・ロッソ Gambero Rossoですが、この初期(1988や1989当時)のレアなイタリアワインと古酒の数々を、掘り下げて解説します。

Vini d'Italia 1988 Gambero Rosso Vol. 57
Luciano Sandrone-Barolo 1983 その2

 

SandroneはCaseBasseと同様、先に人気となったのは外国、特に米国です。

Cannubi取得時、大手の雇われ人であり、有名エノロゴでは無かった彼、その後の苦労は測り知れません。初年度を売り切るのは大変だったと様々な文章を読みました。そんな彼らのワインを純粋に評価したのは、先入観の無い外国のバイヤーでした。78のラベル写真下部には既にMarco De Graziaの名前が。彼はこの時代から既に目利きの商売人で、これはと思う伊の生産者を紹介する仕事を始めていたのです。
 

Sandroneの公式HP歴史のページに、米国のバイヤーがVinitalyで1978のほぼ全てを購入した事、パーカーが1989に97点、1990に100点を付けた事が、誇らしげに書かれています。彼らを見出した外国に目が向くことは当然です。そして90は一つの完成形、これには皆さんも異論無いでしょう。

しかし、私はパーカーがSandroneのCBに100を付けた事が今でも腑に落ちない。SandroneのCBは力で押し切るタイプでは無く、あくまでも丸く、深淵でしなやかな事、そして緊密ながらもどこかリラックスしている事でした。バリックをガチに利かせるタイプではありません。これが短期であれ調子が狂った原因と考えます。米国(を含む評論家)受けする、彼にとっては不得手な醸造スタイルに知らず知らず寄っていったのだと。

結果91~99はどことなく肩に力が入った過度なスタイルに変化した事は確かで、Cannubi Boschis特有の抜け感が消えます。92のピエモンテは水浸しの難年でしたが(我々は今でもあの年のLa Conteaの井戸水、川水、ロウソク営業を語ります)、醸造に関しては百戦錬磨のSandrone、大手でミックスバローロをさんざん造り、だからこそ84と87を見事に纏めバランスを取り、高評価まで取った彼、92は天候不順だから仕方無いとは片付けられない。

91~99の間、バランス取りに試行錯誤した事は間違い無く、凸凹過ぎる出来が続きます。但し、経年変化に耐える事は全く問題無く、彼の実力や造り方に根底から変化があった訳ではありません。いわゆるパワー系の評論が落ち着き、自分を取り戻し、新たな方程式を見出す00以降は、以前の様にTreBicchieriを量産します。

 

初期~不調~復活の時期を付き合う事で確信しました。前回の終わりにも書きましたが、私が彼を好きな理由は、『進化したクラシックなバローロ人』。クリュ云々よりも、彼の根底にはBorgognoとMarchesi di Baroloでのクラシックなワイン造りの基本が今も脈々と残っています。開放型プレス、225lのバリック新樽を使わずに500l樽への拘り(初期は700lも)など、製法そのものはRF以外、クラシックとあまり変わりありません。更にクラシックタイプの人間だなあと思えるのはLe Vigne(ミックスバローロ)の存在。彼は90からLe Vigneを造り始めますが、91~99Cannubi Boschisの?時期でもLe Vigneは非常に非常に出来が良く、手慣れた感が強い強い。私は先にCannubi Boschisを知ったので、これに肩入れしていますが、作品としての完成度、特に価格バランス、年毎のブレの無さなどの総合判断ではLe Vigneの方が良い出来だと思うほどです。このアプローチは完全にクラシックだ。

 

RF、自前のブドウで勝負等自分なりの理論試しを行ったのが初期、自信がついたのでエティケッタデザインをモダンにし(ミニマムながらも完璧なデザイン。ほれぼれします)クリュ名も乗っけたのが85~90、認められて少し有頂天になったのが91~99、自分を取り戻したのが00~12、隠居・次世代へのバトンタッチとしてワイン名も変えてしまう13~。彼のその時の精神状態が手に取る様にわかるCannubi Boschis。なんか素朴な生き方ですね。今まで紹介してきたエキセントリックな一団とは全く違います(彼らの生き方も好きですが、誰とは書きませんよ)。最近の彼の写真やニュースは『ALE』『STE』のポロシャツ二人に挟まれてニコニコ笑っているものばかりです。大切なはずのクリュ名『Cannubi Boschis』を使う事を止めてしまう位、この二人や家族が大切で、元来、好きなBaroloを家族と造っていられれば、後はどうでも良かったのかも知れません。本当に出来た人に良い家族ですね。

 

私は二人の子供の名前を何かにつけるかなあ。妻はメールアドレスに使っていますが、私のメールアドレスは『brunodirocca』だし、自分の店を開くならば、店名は『Serie A』だし。
自分のFacebookの基本データ欄、好きな言葉は『fantasista』『serieA』だとさ。今思い出しましたが、最低ですね。

 

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