4月のこと、友人達と京橋の「アーティゾン美術館」で過ごす楽しい美術鑑賞の続き。
今日のメンバーは、かずみさんご夫妻、しづちゃん、そして私。
鑑賞している企画展は、”見る、感じる、学ぶ アートを楽しむ”。
セクション3は、”印象派の世界を体感する-近代都市パリの日常風景”。
印象派の画家たちが活躍した19世紀最後の四半世紀、この時代のパリを舞台として、二人の画家、ベルト・モリゾとギュスターヴ・カイユボットに焦点を当てて作品が展示されている。
ベルト・モリゾは印象派グループの数少ない女性画家の一人。
エドゥアール・マネと家が近く出身階級も同じであったことから、モリゾ家とマネ家は親密な付き合いがあった。
マネはベルト・モリゾをモデルとして11点の作品を描いている。
ベルト・モリゾ、「バルコニーの女と子ども」(1872年) 油彩・カンヴァス
ベルト・モリゾの代表作で、今回の企画展パンフレットの表紙になっている。
場所はシャイヨー宮にほど近いモリゾの自邸のバルコニー。
見える景色はトロカデロ庭園、セーヌ川、シャン・ド・マルス公園、遠景にはアンヴァリッドの金色のドーム、サント・クロチルド聖堂のふたつの尖塔、そしてノートルダム大聖堂。
これらの遠景に較べ、人物はとても精緻に描かれている。
印象派の手法が色濃い作品だが、この絵を見て何時も思うのは、右側の花台となっている無骨な石柱の存在。
この絵にこの石柱が必要なのかと不思議に感じてしまう。
ファッションプレート(1872年頃)
モリゾの絵に描かれているのは、長姉のイヴ・ゴビヤールとその娘、ポール・ゴビヤールと考えられている。
母親は黒のウォーキング・ドレスにフォワード・ティルト・ハット、手にはピンクの日傘。
娘はピナフォア・ドレス。
スカートの後部を膨らませるバッスルの形がわかるように母親は横向きに描かれ、娘はドレスの細部がわかるように後ろ向きに描かれている。
まさに当時のパリの高級ブルジョア階級の流行ファッションなのだ。
2018年4月の調査により、この絵の下には別の絵が描かれていることが判明している。
それは子供を抱く母親のようだ。
気に入らない絵を塗りつぶし、次の絵のカンヴァスとして利用したのだろうか。
シャルル・ロイトリンガー、「エドゥアール・マネ」 ウッドベリータイプ
ベルト・モリゾと親交があり、モリゾの絵に影響を与えたエドゥアール・マネの写真も展示されている。
エドゥアール・マネ、「オペラ座の仮面舞踏会」(1873年) 油彩・カンヴァス
シルクハットと燕尾服の上流階級の男性達と一緒に居るのは、踊り子や高級娼婦達。
今から舞踏会が開演するのだろうか、人々の興奮や熱気が感じられる。
エドゥアール・マネ、「メリー・ローラン」(1882年) 油彩・カンヴァス
マネは最晩年になると病気のため大作を描くことができなくなり、親しい女性たちの肖像画を描くようになった。
その中でもお気に入りはメリー・ローランで、彼女の絵を何枚も描いている。
ピエール=オーギュスト・ルノワール、「少女」(1887年) パステル・紙
印象派と言えば、ルノワールなしには語れない。
ブルーの瞳と、ドレス、背景のブルーが調和して美しい。
イタリア・ルネッサンスや新古典主義の影響を受けていた”硬い時代”の作品なのだそうだが、やはりルノワールらしい絵だ。
ピエール=オーギュスト・ルノワール、「すわるジョルジェット・シャルパンティエ嬢」(1876年) 油彩・カンヴァス
ルノワールの少女像は本当に可愛い。
パトロンの出版業者、ジョルジュ・シャルパンティエから最初に依頼された家族の肖像画で、モデルは長女のジョルジェット(当時4歳)。
エヴァ・ゴンザレス、「眠り」(1877-78年頃) 油彩・カンヴァス
エヴァ・ゴンザレスも、印象派の女性画家。
16歳でシャルル・シャプランのアトリエで学び始め、のちに弟子としてデビュー。
また、エドゥアール・マネの唯一の正式な弟子としても知られている。
マネの人物を浮かび上がらせる写実的な手法を用いながら、女性の美しい肖像画で有名なシャプランのロマンチックな女性表現が見られる素晴らしい作品だ。
カミーユ・コロー、「オンフルールのトゥータン農場」(1845年頃) 油彩・カンヴァス
まさに風景画家コローの名作。
コローはノルマンディー地方の港町オンフルールを1820年代から何度も訪れている。
オンフルールの高台にあるサン=シメオン農場は宿屋を兼ねていた。
やがて「トゥータン叔母さんの農場」と呼ばれるようになり、ここに多くの画家が逗留した。
次に焦点が当てられているのは、ギュスターヴ・カイユボット。
印象派の画家で、印象派展に出品する傍ら、その活動を経済的に支えたことでも知られる。
ギュスターヴ・カイユボット、「ピアノを弾く若い男」(1876年) 油彩・カンヴァス
1876年の第2回印象派展に出品された、カイユボットの代表作の一つ。
パリのミロメニル通りの自邸でピアノを弾く弟のマルシャルを描いたもの。
ピアノは当時好まれた画題だが、弾き手が男性というのは珍しい。
まず目を奪われるのはその精緻な表現。
窓から差し込む光がピアノや脚に反射し、上げられた蓋には指や鍵盤が映っている。
これは印象派としてはかなり異質で、題材は別として新古典主義の絵なのではと思ってしまう。
ピエール=オーギュスト・ルノワール、「ピアノを弾く女」(1875-76年)
アート・インスティテュート・オヴ・シカゴ
1876年の第2回印象派展に、「ピアノを弾く若い男」と同じく出品された作品。
同じ印象派のルノワールが描くと、ピアノを弾く女性はこんなに違う表現となる。
エラール社、グランドピアノ(1877年)
19世紀後半にフランスで最も人気のあったピアノメーカーは、エラール社。
当時はエラールという言葉自体がピアノを意味したほどだ。
エドガー・ドガ、「浴後」(1900年頃) パステル・紙
同じく印象派のドガは踊り子と共に浴室の裸婦を題材とした絵を多く描いている。
カイユボットとの画風の違いが一層際立つ。
エルガー・ドガ、「レオポール・ルヴェールの肖像」(1874年頃) 油彩・カンヴァス
ルヴェールは、ドガの友人の印象派の画家。
頭部は極めて精緻に描かれ、一方で洋服や背景は素早く大胆な筆遣いで描かれ、印象派の特徴が出ている。
ギュスターヴ・カイユボット、「イエールの平原」(1878年) パステル・紙
印象派の画家は風景画も得意としている。
パリ郊外のイエールにカイユボット家は11ヘクタールの敷地を持つ夏の邸宅を保有していたことから、カイユボットはイエールの風景を数多く描いている。
マリー・ブラックモン、「セーヴルのテラスにて」(1880年) 油彩・カンヴァス
印象派の女性画家、マリー・ブラックモンもパリ近郊のセーブルの様子を描いている。
フェリックス・ブラックモン、「セーヴルのヴィラ・ブランカのテラスにて(制作中のマリー・ブラックモン)」(1876年) エッチング
マリーの夫、フェリックスの作品。
カミーユ・ピサロ、「菜園」(1878年) 油彩・カンヴァス
パリの北西約40kmにある街、ポントワーズに度々滞在し、膨大な量の絵を制作している。
この「菜園」はポントワーズの名産品、キャベツの畑を描いたもの。
この後さらに、もう一つの企画展、”画家の手紙”や常設展も鑑賞したが、全部で83点もの作品群だったので、今回の記事では割愛。
クリスチャン・ダニエル・ラウホ、「勝利の女神」
最後に、大好きな大理石の彫像の前で記念撮影。
友人たちと過ごす、京橋の「アーティゾン美術館」での楽しい午後でした。