無下、ある日ライブを見てめっちゃかっこいいと思ったバンドのドラマーと話していて内心むかついてしまったことをひとりにだけ打ち明けたこと。自分より怒りを露わにする様子がおかしくて、嬉しくて笑った。不意にギリギリな状態になると連絡が来て手汗をかいたこと。家族の問題を誰よりも先に話したこと。まだ整理もつかない状態で支離滅裂な話を時間を割いて聞いてくれたこと。狭いライブハウスで喜びを表現したこと。なんとなく帰るタイミングを合わせて駅のホームで返してくれたこと。白いふわふわのコート。フェイバリットいそまる。極寒の池。パスコード。大切に思いすぎて壊せなかったもの。アイスクリーム。自家焙煎珈琲。

雪解けの道に足を取られないように、軸足をなるべく残さずに歩いた。暇がなくても思い起こされるのは大抵同じ記憶で、遠ざけたものをいつまでも見続けているようだった。もしも平穏と幸福を願うことさえ身勝手なら一度くらいは頭の中を空っぽにして泥に塗れてみたいものだと悴んだ赤裂だらけの両手をポケットに押し込みながら、時々森永の高カカオチョコレートを食べながら思った。