山椒好き…


すごく面白かった。


「ドグラ・マグラ」とは、また別の意味でかなりヤバい。


何せこの作品、あらすじにしろ時代背景や舞台設定にしろ、どんな話なのかを誰かに伝えるには放送禁止用語を一切使わずに説明することはほぼ不可能。


逆に言えば、この小説が発表された当時、昭和初期の庶民がどういう意識や感覚でそういう言葉を使っていたかを肌感覚で知り得る貴重な作品でもあります。


福岡在住の、万物に通暁したホームレスの怪人、犬神博士が記者に問われ己の過去を語る形で物語は進むのですが、波瀾万丈を遙かに超えてムチャクチャ! テーマもへったくれもあったもんじゃない。贋親子の無惨な旅回りの物語かと思いきや、ギャンブル小説を経由しての、九州北部の炭鉱の覇権を争う、官憲に国士壮士が入り乱れての抗争バトル。


オレは文学者ではないので、作家の文体についてはあまり具体的に多くを語る言葉は持ち合わせていませんが、それでも夢野久作の文章は、掛け値無しでただただスゴいと思います。


それを誰でも直裁に感じるためには、兎にも角にも彼の小説を読む時は黙読するのではなく、音読、もしくは朗読してみることかと。


もちろん声を出す音量は小さくてもかまわないので、実際に口を動かして、発音し発話することが大事かな?


そうすることで、オレが言わんとしていることの意味が少しでもわかってもらえるとすごく嬉しいです。


そうして読み進めると教科書に出てきた大作家のいわゆる純文学なんぞ、簡単に吹き飛んでしまいます。


ポエムリーディングか、舞台劇のセリフのような流麗な言葉で繰り広げられる破格のエンターテインメント。


作者である夢野久作の父親が戦前戦中の歴史に残る右翼の親玉なのは言わずもがなで有名ですが、なぜ、わざわざソレを模した人物を劇中に登場させ、あまつさえ主人公を肩車させるのか? 


さらには反権力志向かと思いきや、北九州や福岡地域に住む人間として、明治以降の薩長政府に対する微妙な怨嗟を妊んだ鬱屈感も隠さない。


親父を模した人物のセリフからは、壮士や大陸浪人と言われた当時の輩の世界観とメンタルを知ることもできます。


まさにヤバいよヤバいよヤバいよ…。


オレ的には、ジョン・ウォーターズがカーペンターかウォルター・ヒルしてマイケル・チミノしている感覚。ときどきデビッド・リンチ風味。


もうイメージだけでお腹いっぱい。


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