西京焼き定食な面持ち


不粋と饒舌を嫌い、武蔵美で画を学びフランスでの受賞歴もあり、器も作る趣味人。口は悪いが繊細な紳士。まあ、テレビに映る人の中でも品のあるディレッタントとしては稀有な人だったかも?


オレにとって俳優として印象に残るのは、巻末リンクのこの作品で演じていた磯貝という編集者役と、ATG製作の「本陣殺人事件」でやってた、ジーンズにチューリップハット姿の金田一耕助。他の役者と違って、ちょっと爬虫類っぽい眼をした金田一ってステキ。


どうやら「月曜日のユカ」がデビュー作らしいから、この週末のバスケの試合の隙を見て、超絶かわいい加賀まりこを眺めるついでに中尾さんを追悼しながら再鑑賞しますかね?


それにしても、巻末リンクのこの映画、いろんな意味でスゴいんだよね。オレ、高校生の時に映画館で観たし、実はDVDも持っている。


原作の少し長めの短篇小説は、横溝正史の作品の中でもオレの個人的な短篇小説ベストテンの上位に入ってきます。乱歩の「心理試験」や夢野久作「瓶詰めの地獄」志賀直哉「范の犯罪」などと並んでね。


この原作は「小説の中に小説を書いてる登場人物がいて、その物語を小説内で読む」という、いわゆる「入れ子の構造」であり、この小説自体をリアルタイムに読んでいる読者にとっても主体と客体が混沌としてくる、量子力学におけるシュレディンガーの猫の命題を目の当たりにしたような感覚になります。


一方で映画の方も、かなり映像美が独特で、当時、世間的にニューハーフと初めて呼ばれた松原留美子が姉役に抜擢されています。


先日読んだ猪瀬直樹の三島伝で、ドイツの学者の著書からの引用で、猪瀬さんは三島「仮性同性愛」説を取り上げていましたが、確かに、幼少期に自発他発問わず幽閉状態で書物や絵画などの創作の世界に耽溺する生活を続けていると、性自認も含めた社会における自我の立脚点があやふやになる感覚は、オレもわからなくはない。


感受性が幼く過敏な分だけ、早い話が空想と現実の境界がわからなくなります。


原作小説が読み手と書き手と登場人物が絶えず主客転倒するようなグラグラする世界観を売りとするならば、映画の方はよりさらに、どこまでが空想や妄想でどこまでが現実かがわからなくなる酩酊感を齎します。


ただね。松原留美子さんは当時の時代の限界なのか、おそらく2丁目界隈で言うところの「工事をしてない人」のようで、今のあのあたりのお姉さんたちと比べてしまうと、アップに寄った時の皮膚の状態や身体の輪郭の曲線がかなり残念な感じに見えてしまいます。


今のお姉さんたちは、ホルモン治療の進歩もあるのか、オトコの娘と呼ばれる人たちも含めて、おそろしく綺麗で、長年ノンケのつもりでいるオレですら近くにいると頭がクラクラします。


あの界隈に暮らしていると、性自認や性指向以前に、性別ってそもそも何なの? と思えるくらいに。


閑話休題。少しディスった形にはなりましたが、それでも、中尾彬演じる編集者の粘着質で目ヂカラに情欲が迸る感じや全編を通した耽美的な映像美は、必見の価値のある映画ではあります。少し時代的に早すぎた挑戦作なのかも? とりあえずオレは嫌いではない。


もし観られた奇特な方がおられれば、ぜひお話しましょう。


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