同級生に教わった唐揚げ専門店の美味弁当


自分が将来大人になって何者になるかなんて、ちっとも考えていないガキだった。ご他聞に漏れずパイロットにはそそられたが、幼稚園から視力が落ち始め、小1の終わりあたりで学年最初のチビガリメガネになった頃から、目の悪い人にはなれないと周囲から冷や水を浴びせられた。


ゼビウスをクリアループするぐらいだから、動体視力自体はさほど悪くないんだろうけど、裸眼で視力検査の一番上が見えないんだもん。話にならん。


最近よく言われる親ガチャで、もう少しいい目が出てれば今より手堅く地道な生き方ができたと思わんこともねえが、今さら言っても詮無いことよ。


鉄火場の空気を吸って育ったからには、何かしら世間の澱みたいなものが肌に染みついてんだろうね。かなり薄くはなったが未だ残る右踝の赤痣のように。一事が万事ジャンプな、外道で非道な物言いしかできねえよ。


それでも、お前は将来何になりたいの? と問われるたび、大人なんぞに絶対に白状するものかと口を噤んでいたけど、ホントは、そんな職業なんてないのはガキだったオレでもわかってはいたけど、漠然と「正義の味方になりたい」と思っていたんだぜ、恥ずかしながら。しかも、ついこないだまで。


だからというわけでもねえだろうけど、高校で初めて同級生の女のコと付き合ったきっかけからして、そのあたりの根っこを見抜かれていたのかもしれない。


「ワタシと付き合える?」


いつどこでどのタイミングで言われたかは今や記憶アーカイブの濃い霧の中だが、彼女はオレにそう切り出した。


以下、話を整理する意味からも事実関係を先に列挙するが、これらはすべて事態が終わってからオレは知ったことなので、結果もプロセスも含めた彼女への批判はできればやめてほしいな。田舎の高校生だし。未熟でも悪しからず。


それにしても、今の今まで異性として意識していなかった同級生にそんな風な謎の問いかけをされ、当然ながらオレは猛烈に戸惑った。


オレだって好きになった娘がいなかったわけじゃない。生来のダサいガリ勉容姿もあって縁遠かっただけだ。


どうやら、彼女はその頃、同じ部活の男子に今で言うストーカー行為をされていたようなのだ。ヤツは、どんな手段で彼女が拒否の意思表示をしても、そのアプローチはかなり執拗だったようだ。


そこで、彼女は一計を案じた。

「公的に彼氏がいればあきらめるはず」


それで、その候補として俺の眉間のど真ん中に前頭葉に届くまで深く白羽の矢が立ったわけだ。


こういうの「見せカレ」って呼ぶのか?


委細をわからぬオレは告られたと思い、舞い上がる。


おそらくおたがい、ちゃんとした交際は初めて同士。


当たり前のようにぎこちなく探るように距離を詰めていく関係。


よく考えればわかるだろうに、並の下の方のルックス、成績だって悪くはないが、科目でムラの激しい、首席にもなれない、単なるエキセントリックな文学オタク…そんな男が、ピアノも歌も達者な同性、先輩後輩からも人望厚いお嬢様な娘さんから、告られる道理など微塵もないことなんて。


そして、運がいいのか悪いのか、その時すでに一人暮らし中。早い話が放課後に連れ込み放題だ。結論から言うと、それでも最後まで一線は越えられなかったけどな。


そんなかんなでオフィシャルノンダンディズム彼氏となったオレの登場によって、彼女の目論見通り、ストーカー野郎は引いた。アイツも危なかったが、当時のオレの頭のネジのハズレ具合いの方が相手にもおそらく危険に見えたのだろう。大した武勇伝など何もないが。


彼女には「刺されないよう、アイツを見かけたときだけは油断しないでね」とは言われたけどね。剣呑な視線は幾度か感じたが、直接行使の気配はなかったね。


さて、無事当初の目的を達したら、普通の女のコだった彼女は、受験生なのに登校もロクにせず、部屋に籠もってレコード聴きながら本ばかり読んでる酒飲みオトコとなんてマトモに付き合えない…ってなるでしょ?


およそ半年で、晴れてオレは彼氏のお役御免となりました。


オレに残ったものは、ひょんなことから普通の女のコの一人に過ぎなかった彼女と付き合ううち、少しずつ等身大のまま、可愛く綺麗に見えていく微妙な自分の心の中の変遷を実地で経験できたこと。その移ろう自分の感覚の記憶だけが鮮明に今も残っています。


事の起こりはいつでも波止場の宵さ。切欠や理由なんてものは、後家の何とかと一緒で、後からいくらでも引っ付いてくる。


まあ、死ぬまでにもし彼女に会えたら、あの時は前のめりになりすぎてゴメンとだけ謝ろう。


これがいわゆる若気の至りさ。とね。


しかし、この文章、同級生アルバム持ってて当時そこそこの事情通なら、登場人物すべて特定できちゃうな…。


まいっか、一線越えてないから、指一本も…?








https://www.gqjapan.jp/culture/column/20161128/joe-shishido-the-greatest-gunman-star-ever