ブロッカーズ小説(その126) | 作者のブログ

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「俺の獣まで作ってくれたのか」
 ランセルは晃が思いもしないほど喜んでいた。自分のためにそこまでしてくれるものが、こちらの世界にはいなかったのかもしれない。ウルフは力を信仰している。ランセルのように敏捷性に優れたものは、ウルフの世界では重んじられることがなかったのである。さらに悪いことに、ランセルは弱くはなかった。敏捷性に優れて強いウルフは、守られるべき存在のひ弱なウルフよりも疎んじられたのだ。それは力のあるウルフが力のないウルフに負けることは恥辱だからなのだった。力が劣るのに強いランセルはウルフの中では嫌われものだったのである。
「アレジーはドラゴンで慣れていると思うけど、ランセルとロウガは最初は飛空する獣の操作に戸惑うかもしれない。でも、すぐに慣れると思う。それに、獣の性格は騎乗する騎手によって変わるので、獣との相性もすぐに良くなるはずなんだ」
 晃が話を終える前に、ランセルはフライモルトに騎乗にしてしまっていた。そして、手綱をとると、かんたんに飛行し、上空で旋回して地上にもどった。
「驚いたなあ。なんて運動能力なんだろう」
 晃が、いったん地上にもどったかと思うと、そのまま再び上空に舞い上がって行くランセルを見ながら言った。
「ランセルとはそうした男なのよ。力じゃ負ける気はしないが、あいつと本気で命のやり取りはしたくない。それはベルガだって同じだろう。力はないが、力以外のことに関しては天才なんだ。城の宝物を盗んで、今まで生きていられたのは、先王の寛大さもあるが、やはり、あいつが強いからというのも大きかったんだよ。優れた身体能力、そして、優れた頭脳。それを持て余してあいつは盗賊になったんだ」
 クーガが上空ではしゃぐランセルを眺めながら、そう呟いた。
「晃、ボクもどうやら、この獣の騎乗には問題がないようだよ。この獣は怖そうだけど、とても優しいよ。やわらくて、しなやかで、まるでボクのために生きているような獣だよ」
 翼豹はロウガを乗せて地上を走った。左右に機敏に動き、そして、一瞬で上空を駆けた。ドラゴンには出来ない、いや、ペガサスにさえ出来ない芸当だった。その上、グリフォンほどではないが、翼豹は二本足で立つことも得意としていた。二本足で立ち、鋭い爪と牙を見せると、屈強な城のウルフ兵たちも、一瞬、怯えた様子を見せた。
「すごいですね。正直、私はあなたたちが城の地下迷宮に入って、地下都市を目指すことを不安に思っていたのです。でも、今、きっと、あなたたちは地下都市から、この世界で起きている謎に対する手がかりを持って帰って来ると信じることが出来ました。どんな魔物も、きっと、あなたたちには敵わないでしょうから」
 暫定王のアラインが言った。
「セイナ王子によれば、ランウルフ城の地下迷宮を抜けることが、地上と地下の関係から考えて、もっとも地下都市カブトに近いと言うことでした。王子は、自ら、何度も地下に単身で乗り込み、そして、地上と地下の関係について調べていたので、きっと、確かだと思います。ただ、それでも、地下迷宮を抜けることがかんたんだとは思えませんし、もし、迷宮を抜けられたとしても、そこから一週間以上はかかる距離にあるそうです」
 アレジーは騎乗していなかった。自らに与えられた獣の首を撫でながらアレジーはアラインに言った。
 その言葉に答えたのは、しかし、アラインではなく、地上にもどったばかりのランセルだった。