平原が続いていた。緑の草はまるで大地の絨毯のように水平に連なっている。地平の彼方までもが緑に見える。その緑の大地は岩山と、そして、その岩山の上に聳える雄大な石の城へと繋がっている。
そして、三角錐のドックが岩山から少し離れた緑の大地にポツリ、ポツリと置かれている。城を造ったのはドワーフという種族であり、それを造らせたのはウルフという種族である。しかし、三角錐のドックは、いつ誰が何のために造ったものか、それを知る者はいなかった。ウルフやウルフよりも、もっと種族としての歴史が古いとされるエルフやドワーフでさえ、それについては知らなかった。山がそこにあるように、海がそこにあるように、ドックもそこに在り続けたのかもしれない。生命の誕生する遥か以前から。
三角錐のドックの間には武装したウルフがいた。一際大きなウルフがベルガだった。ベルガの隣に立つ美しい女性はアレジーだった。彼らは待っているのだ。晃が旅立ちのためにドックに現れるのを。
それまでにも、晃は同じドックに現れていた。しかし、晃はこちらの世界に現れても、決してドックから出ようとはしなかったのだ。そして、誰もドックには近づきもしなかったのだ。それが晃の望みだった。ただ、城から、ときどき、晃のドックの外にいる彼のドラゴンであるミンリュウの姿を見て、晃が確かにドックにもどっているらしいことが確認出来ただけだった。
ただ、その日は違っていた。旅立ちのために、いよいよ晃がドックの外に姿を見せる日だったのである。
いくつもの三角錐のドックの影が緑の大地で重なり合って奇妙な模様を作っていた。その模様の中でベルガもアレジーも静かに立っていた。あのおしゃべりのベルガさえもが、しばらくの時間、口を開いていなかった。彼らは緊張していたのだ。もしかしたら、晃が二度と現れないかもしれない、と、そんなことを考えていたのだ。晃がドックに籠っていたのは一週間ほどなのに、たった、それだけの間、彼らは不安で仕方なかったのだ。
「晃」
静寂を最初に破ったのはロウガだった。ドックに晃の匂いが戻ったのを感じたのだ。
ドックのドラゴン用の大きな扉が開いた。しかし、そこにはミンリュウの姿はなく、代わりに四体の獣がいた。集まった狼たちは、その四体の美しい獣に驚いき、そして、今度は驚嘆に言葉を失って静寂した。