第六句集『山の木』所収。

『山の木』には1971年から1975年まで(龍太51歳から55歳まで)の作品が収められている。

1972年(52歳)作。

季語「春」についてはこちら

 

描写されているのは「文旦」の様子にすぎないけれども、“ぶんたん”に含まれる撥音の繰返しや「ぶらぶら」というオノマトペ、「文旦」「ぶらぶら」並べられた二つの措辞によって反復される“ぶ”の音、それらが軽やかなリズムをなして、「春の町」を気ままに散歩する作者の姿とその内面を想像させる。

単に「文旦」とせず、冗長に「文旦の実」としたのは、その輝くように黄色い色彩や、枝から落ちんばかりの大きさを暗示するためだろう。

この「文旦の実」は、春の太陽のメタファでもあるに違いない。

ちなみに、「文旦」は“朱欒(ざぼん)”とも言い冬の季語(秋に分類する歳時記もある)。

龍太には「朱欒叩けば春潮の音すなり」の句もあり、あるいは冬から春へと移り変わる早春の時期の微妙な季節感を表現するために、あえて春の句の中に“文旦”や“朱欒”を詠み込んでいるのかもしれない。