第一句集『百戸の谿』所収。
『百戸の谿』には1941年から1953年まで(龍太21歳から33歳まで)の作品が収められている。
1952年(32歳)作。
季語「夏」についてはこちら

龍太はこの年5月、当時勤務していた山梨県立図書館の視察旅行で、福岡、鹿児島、宮崎を訪れており、「牛」はその「夏旅」での嘱目だと思われる。
モチーフとなった場所は不明だが、「無限のかず」からいって放牧の光景だろう。
本句は明解な作品とは言い難い。
その原因は助詞「も」の使用にある。
たとえば“牛は無限のかず夏旅はいつか果つ”ならば、前半と後半とで無限と有限とが対照され、刻々過ぎてゆく「旅」の時間を、ひいては「夏」そのものを惜しむ心情を表すことになる。
逆にいえば「も」を用いた本句は、そういう内容ではないということだ。
ところで「牛も無限のかず」は、抽象的な事柄を述べようとしたのではなく、あくまで数の多さを表すための誇張表現だろう。
言い換えると“無限の如し”ということ。
とすれば後半は、「夏旅も(また無限の如し。しかし)いつか(は)果つ」という意味合なのではないか。
「夏旅も」の後に意味上の切れが隠れているわけだ。
そしてこの場合作者は「夏旅」を、少なくとも心から楽しんでいるわけではないことになる。
年譜によると、龍太はこの旅から帰って風邪で寝込んでしまったらしい。
あるいは病の兆候がこの句には表れているのかもしれない。