第八句集『今昔』所収。
『今昔』には1977年晩夏から1981年初夏まで(龍太57歳から61歳まで)の作品が収められている。
1981年(61歳)作。
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「こんにやく村」は“こんにゃくのような村”で、夕闇に沈んだ様子の暗喩だろう。
とすれば、すでに日が没したあとの、徐々に薄れていく紅の残る「夕空」を想像したい。
村人たちは野良仕事を終え、おのおのの家に帰る時刻。
すなわち“空では鳥が北へ帰り、地上では人が家に帰る”といった対句表現が隠れている。
村人たちは夕空を帰ってゆく鳥たちに気づいているのかどうか。
気づいたにしても、それほど深く心にとめるようではない。
ただ「こんにやく」に喩えられた「村」そのものは、別れの涙に湿って、哀しみにぷるぷるとふるえているようである。
いうまでもなくそれは作者自身の心の投影であり、その心を一言で表すならば、“郷愁”という言葉が一番ふさわしいようだ。