第十句集『遲速』所収。
『遲速』には1985年春から1991年冬まで(龍太65歳から71歳まで)の作品が収められている。龍太最後の句集。
1985年(65歳)作。
季語「菊日和(きくびより)」についてはこちら

キを中心としたカ行音の反復が意識されているのは明らか。
この反復により様々な種類・色の「菊」を、文字通り「つぎつぎと」連想させられる。
また、落葉して隙間だらけの「木」では、「風が木を出て」という表現にふさわしくない。
常緑樹はもちろんのこと、落葉樹であっても紅葉・黄葉をまだ豊富に纏っているに違いない。
すなわち、「木」「菊」ともに多くの色彩を措辞の背後に秘めている。
それらの色彩が、澄んだ秋の日差を浴びて、耀いているわけだ。
同時に、無色の「風」は、それらの色彩と対比関係にあると言える。
「つぎつぎに風が木を出て」は、とどまることなく流れる時間を連想させるフレーズでもあり、やがて訪れる冬が地上の色彩を消し去ってしまうこと、すなわち「菊日和」のはかなさが暗示されているようだ。
仲秋というより晩秋に近い頃の、華やかさと寂しさとを併せ持つ季節の雰囲気を繊細にとらえらた、厚みのある作品といえるだろう。