第七句集『涼夜』所収。
『涼夜』には龍太55歳から57歳までの作品が収められている。
ちなみに、『涼夜』は龍太が生涯出した10冊の句集の中で、唯一400部の限定版として刊行されたものである。
豪華な和装本だったためだ。
龍太の発案ではなく出版社の企画によるものだが、しかしその句集の体裁や出版形態の特殊性から、収録句を選ぶ際に他の句集の場合とは少し異なる意識が龍太に働いたことは想像に難くない。
出版当時詩人の大岡信はこの句集の内容にあまり肯定的な評価をしなかったらしいが、あるいは上記のような経緯の結果のためかもしれない。

掲句の季語は『初夢』で新年。
「高嶺の雪煙り」を麓から見上げているようでもあり、高嶺に立って雪煙りに包まれているようでもある。
「夢の中」だから、両方の空間にいわば曖昧に身を置いているという解釈も許されるだろう。
「初」の一字が、「高嶺」を人跡未踏の処女峰のように急峻に見せ、視界を遮る「雪煙り」の純白に神々しさを与えている。
「雪煙り」の見透かせない向こう側に、人智を隔絶した巨大で強力な存在が趺坐しているようでもある。
山岳信仰を連想するが、そこまででなくとも山に囲まれて暮らす甲斐人として、山に対する素朴な畏怖心は龍太も持っていたに違いない。
神聖で厳粛な「めでたさ」の表現された作品。