昔から私は女性がこんなことを言うたびに奇異な思いをしていました。
「あ~また太っちゃう」
「ダイエットしなくっちゃ」
たしかにそうしなければならないような女性はたくさんいます(失礼!)。
しかし、どう見ても太っているとは思えない、むしろほっそりした方までがそう言うのです。
私はひそかにこう考えていました。
「きっと彼女たちは、ダイエットの悪魔にとり憑かれているにちがいない」

ところで1年ほど前。
私は体重が65キロを超えてしまいました。
ウェストも85センチちょっと。
ベルトを締めるとき使うのは一番端近の穴ばかり。
あきらかにメタボの入口。
若い頃は「あなたって太らない体質でいいわね」とよく言われ、私もそう信じこんでいましたが、男は40歳ちかくになると、若い女性からまったく相手にされなくなると同時に体質も変わるようです。
それはともかく、これ以上ぶくぶく太ると、いま持っているスーツを着ることができなくなってしまいます。
新しく買わねばならなくなります。
お金がかかります。
健康よりも金銭的理由で、5キロ減を目標にダイエットすることにしました。
アルコールを控え、ご飯の量も減らし、おやつは完全にシャットアウト。
はじめのうちは食べものの匂いがするだけでも辛く、口さみしさに水ばかり飲んでいました。
体重もなかなか落ちませんでしたが、徐々に減って、やっと60キロを少し下回るくらいに。
目標達成です。
そのとき私は考えました。
「体重なんて、2キロくらいすぐに増えるものだからなぁ」
そこでもう2キロやせることにし、趣味のジョギングの距離を6キロから10キロにのばしました。
やがて体重は57キロに。
私は考えました。
「最近身体の調子がいいし、きっと57キロが自分のベストの体重なんだな。でも、57キロをキープするには、55キロくらいになっておいたほうがいいかもな。なにせ2キロくらいはすぐ増えるんだから。松井秀喜の背番号も55だし」
ダイエットとはなんの関係もない松井秀喜の背番号を連想した時点で、何かおかしいと気づくべきでした。
いまや私の食生活は菜食主義者のように野菜が中心になり、アルコールは完全にやめ、運動量をさらに増やすために、毎日10キロのジョギングに加えて会社の行き帰り一駅分歩くようになりました。
なんかいつも身体と頭の中とがフラフラしています。
まるで吸血鬼に血を吸い取られたあとのような気分です。
鏡を見るとそこに映っているのは、スリムな「チョイワルオヤジ」などではなく、干からびた古代エジプトのミイラに近い。
先日体重を量ると、54キロ台前半になっていました。
このままだと53キロ台になってしまうのは確実。
ダイエットをはじめた時点から10キロ以上やせています。
いくらなんでもこれ以上はやせすぎ。
健康にもきっと悪い。
もう少し太ったほうがいい。
お肉を食べよう。
けれども、そう思うとたんに、何者かが耳元でそっとささやくのです。
「また太りたいの? あんなみっともない体型に戻っちゃってもいいの? それよりもう少しやせたほうがいいんじゃない・・・」
きっと私も、世の多くの女性のように、ダイエットの悪魔にとり憑かれてしまったにちがいありません。

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