【難所01】遺言書の解釈(訂正有) | 合格への道のり("3つの道"編)

合格への道のり("3つの道"編)

これまで宅地建物取引士試験、行政書士試験、司法書士試験、海事代理士試験及びマンション管理士試験に一発合格しました。2022年からは受験生、実務家(士業)及び講師の3つの道を歩みますので、どうぞよろしくお願いしますm(_ _)m。

【海野禎子先生の御指摘を踏まえ一部訂正】

非常にややこしい①遺言書の解釈⇨②共有解消の流れをまとめてみました💦💦

(ポイント)

遺言書の①使用文言、②受益物、③受益者の3点に着目して文理解釈する

(理由)登記官の審査は形式的審査権


なお、以下のex中、被相続人の相続人は長男A、次男B、長女Cのみであり、D、Eは第三者(相続人以外)



1.使用文言「相続させる」

①受益物「特定物」

⇨受益者が相続人(の一部)

⇨「特定財産承継遺言」(遺産分割方法の指定)

(ex1)

「甲土地(特定物)をA3分の1、B3分の1、C3分の1の割合で相続させる

「甲土地(特定物)をA2分の1、B2分の1の割合で相続させる


⇨共有形態は「物権共有」

⇨解消手段は「共有物分割協議」


(参考)

受益物が「全財産」の場合、相続分の指定に当たり(共有形態は遺産共有)、当該持分通りに相続登記可能、解消手段は遺産分割となる。

(ex2)

「私の全財産の3分の1をAに、3分の1をBに、3分の1をCに相続させる


この点、「藤原論文(登記インターネット124号P.77参照)」による別の見解あり


なお、公証実務では、相続分の指定と容易に区別できるよう、相続分の指定の場合の文言を「Aの相続分を3分の1、Bの相続分を3分の1、Cの相続分を3分の1とする」の要領で公正証書遺言が作成される

⇨この場合の共有形態は「遺産共有」

⇨解消手段は「遺産分割協議」


②受益物「特定物」

⇨受益者が第三者

⇨「特定遺贈」

(ex3)

「甲土地(特定物)をD3分の2、E3分の1の割合で相続させる


⇨共有形態は「物権共有」

⇨解消手段は「共有物分割協議」


③受益物「全財産」

⇨受益者が第三者

⇨「全部包括遺贈」

(ex4)

「私の全財産の3分の2をDに、3分の1をEに相続させる」※


⇨共有形態は「遺産共有」

⇨解消手段は「遺産分割協議」


※ex4は全部包括遺贈の事例であり、包括受遺者は相続人と同一の権利義務を有するために遺産共有としたが、割合的包括遺贈と解する余地(遺産共有)、特定遺贈(物権共有)と解する余地もあり得る。

なお、全部包括遺贈とは、「私の全財産をDに遺贈する」などのように対象が「全財産」で受贈者が1人の場合が一般的である。


2.使用文言「遺贈する」

(前提知識)遺贈の分類

 遺贈は、相続同様、受益物(遺贈の目的物)によりその形態を分類できる。特定の財産を対象とするのが「特定遺贈」である。

 これに対して、①遺言者の財産全部を一括して1人の受遺者に帰属させようとするのが「全部包括遺贈」、②遺言者の財産に対する割合(ex.2分の1)を示して、これを1人又は数人の受遺者に帰属させようとするのが「割合的包括遺贈」である。(日本公証人連合会編著「新版証書の作成と文例遺言編(改訂版)」P.64)


①受益物「特定物」

⇨受益者が相続人or第三者※

⇨「特定遺贈」

(ex5)

「甲土地(特定物)をA3分の1、B3分の1、C3分の1の割合で遺贈する

(ex6)

「甲土地(特定物)をD3分の2、E3分の1の割合で遺贈する」


⇨共有形態は「物権共有」

⇨解消手段は「共有物分割協議」


※受益者が相続人の場合、農地法の許可不要、相続人身分証明で税率が相続と同率(1000分の4)


②受益物「全財産」

⇨受益者が第三者、相続人の一部

⇨割合的包括遺贈

(ex7)

「私の全財産をD3分の2、E3分の1の割合で遺贈する」※

(ex8)

「私の全財産をA3分の2、B3分の1の割合で遺贈する


⇨共有形態は「遺産共有」

⇨解消手段は「遺産分割協議」


※ex7はex4と同様の解釈

割合的包括遺贈として処理される方が多い(幸良秋夫「相続法と登記」P.332・335)


③受益物「全財産」

⇨受益者が相続人全員

⇨相続分の指定※

(ex9)

「私の全財産をA3分の1、B3分の1、C3分の1の割合で遺贈する


⇨共有形態は「遺産共有」

⇨解消手段は「遺産分割協議」

※受遺者が相続人の全員であり、遺贈の形態が包括遺贈の場合には、これを「相続分の指定」と解して、登記原因は「相続」となる(昭38.11.20民事甲3119号回答)


④受益物「割合的一部」

⇨受益者が第三者or相続人

⇨割合的包括遺贈

(ex10)

「私の全財産の3分の1をDに遺贈する」※

(ex11)

「私の全財産の3分の1をAに遺贈する」※


⇨共有形態は「遺産共有」

⇨解消手段は「遺産分割協議」


※全財産の3分の1は遺言に基づき受贈者(DorA)に帰属するが、残り3分の2は遺言相続の対象とはならず、相続人に法定相続される。

なお、ex10・11におけるABCの法定相続分は、各9分の2となる

※遺贈と相続登記の先後

相続を登記原因とする所有権一部移転の登記を申請することはできないため、遺贈による登記を先に、相続による登記を後に申請する(登記研究523号)


⑤受益物「売却代金で債務清算した残金」

⇨受益者が第三者or相続人

⇨清算型遺贈

(ex10)

「甲土地(特定物)を売却し、売買代金から負債を弁済し、残金をDに遺贈する


※清算型遺贈では2件の登記を申請する。

・相続人への法定相続分による所有権移転の登記

・買主への売買による所有権移転の登記



【雛形(サンプル)】

①共有物分割

登記の目的 B、C持分全部移転

原因    年月日共有物分割

権利者   持分3分の2 A

義務者   B

      C

添付情報  登記原因証明情報

      登記識別情報

      印鑑証明書

      住所証明情報

      代理権限証明情報

課税価格  移転した持分の価格 金100万円

登録免許税 金2万円


②遺産分割(共同相続登記後)

登記の目的 B、C持分全部移転

原因    年月日遺産分割

権利者   持分3分の2 A

義務者   B

      C

添付情報  登記原因証明情報

      登記識別情報

      印鑑証明書

      住所証明情報

      代理権限証明情報

課税価格  移転した持分の価格 金100万円

登録免許税 金2万円