私は以前より、大いなる疑問を抱いておりました。

なぜ、歯磨きをあまりせずに
虫歯が多くあるのに歯周炎が進行しない患者さんと、綺麗に歯が磨けているのに
じわじわと歯周炎が進行し、歯がグラつき抜歯に至る患者さんがいるのかと。


そして
歯周病学者は、もっと患者さん(宿主)の因子に注視するべきではないかとも考えておりました。
しかし、これまでの歯周病学では
細菌(プラークや歯石)や咬合力(ブラキシズム)、全身疾患(糖尿病等)と生活習慣(喫煙・口呼吸等)によるものを中心と考えられ、
遺伝子学や生物学の研究から目をそらしてきました。


そんな折、奥羽大学薬学部生化学分野の大島光宏教授らの研究グループは、
歯周炎の原因となる遺伝子を解明したと発表しました

この研究は大変画期的かつ信頼性の高いもので、今後の歯周病治療に影響を与えるものだと考えております。また、この研究が
歯周病学者主導でなく、生化学者によって発表された点も大きな意義があるものと考えております。

まず最初に歯周病の基本ですが、
この疾患は大きく二つに分けられます。
歯肉溝に細菌性プラークがたまることで歯肉が炎症を起こす歯肉炎(歯を磨けば治る)、そして歯肉の炎症と共に
歯根膜や歯槽骨も破壊される歯周炎(歯槽膿漏。もとには戻らない。)であります。

当然、
問題となるのは歯周炎の方です。しかし実のところ、
歯周炎の原因はいまだに解明されていないのです。

また、今回の論文では、
歯肉炎と歯周炎を個別に捉え、歯肉炎の延長が歯周炎であるという既成概念を横に置いておいて読む必要があります。

(日本薬理学会 日本薬理学雑誌 141 「歯周炎薬物治療のパラダイムシフト」より抜粋引用)
50年ほど前の学会誌には、
歯周炎(歯槽膿漏)の原因は「わからない」と記されていた。
ところが、1965年にLoeらの実験により
プラークが蓄積すると歯肉炎が起こり、歯磨きによってこれらを除去することで歯肉炎が治癒してゆくという結果を得た。さらに、
抗菌薬の全身投与により歯肉炎が軽快したことから、
「歯肉炎の原因は細菌性プラーク」としてプラークと歯肉炎の因果関係を初めて証明した。
しかしこの研究により
歯周炎の原因までプラークだと人々に信じ込まれ、いつの間にか「歯周病は感染症」で、歯を支える骨が溶けて歯が抜ける病気だということになってしまった。
そして、
長年に亘る犯人探しの結果いくつかの「歯周病原菌」なるものが特定されるに至った。
しかし落ち着いて考えると、「感染症」とは微生物が生体内に侵入、増殖して発症するものである。
歯周炎が特定の細菌感染によるものであれば、すでにワクチンができていて良いはずである。
歯周炎が細菌感染であるとされている以上、
現時点での薬物治療は、抗菌薬と抗炎症薬に限られている。
ただし、適応症、薬物の選択、投与期間や投与量などについて見解の一致はないため、
あくまでも歯周基本治療が中心で、投薬は補助的療法である。
アジスロマイシン(マクロライド系抗生剤で「ジスロマック」など)の全身投与も有効であるという報告もあるが、副作用の懸念ならびに切り札として使用すべきであるとの意見もあり、
推奨はされていない。
最も大きな問題は、
歯周炎の本質が、歯と歯槽骨との結合組織性付着(主にコラーゲンによる)の喪失、すなわち「アタッチメント・ロス」であることから多くの人が目を向けないままでいる事である。
このアタッチメント・ロスが起こることで
歯肉炎から歯周炎に移行する。
しかし、
これまで誰もアタッチメント・ロスが起こる理由を説明できていない。
歯を支えている骨(歯槽骨)の吸収を歯周病の主な問題と捉えている人も多くいるが、骨は炎症によって吸収しても、炎症が消退すれば回復する。
コラーゲン分解を阻害する薬物のスクリーニングを行った。
歯周炎は、創傷治癒反応であるという仮説から漢方薬の構成成分である生薬に着目した。
オウゴン、ケイヒ、ブクリュウなど、延べ
23種類の生薬にコラーゲン分解阻害効果が見いだされた。
驚いたことに、有効であった成分のいくつかを含む
漢方薬「桂枝五物湯」の効能は「歯槽膿漏」とされていた。

システム生物学の発展により、歯科でもこれを応用する機運が高まっている。
筆者らも「生体外歯周炎モデル」のトランスクリプトーム解析を試み、現時点で出てきた
遺伝子はVEGFRI(FLT1)がある。
VEGFRIキナーゼ阻害薬により、
コラーゲン分解が阻害できたことから、より現実的な分子標的治療薬の候補と考えている。
(抜粋引用ここまで)
以上の論文より、
FLT1(フリットワン)が歯周炎進行の原因遺伝子であることが解明されました。


(Dentalism No.23 より抜粋引用)
大島教授曰く、
「歯周炎患者の歯肉には、健常者にはない歯周炎関連線維芽細胞が存在し、その細胞が歯と骨の間のコラーゲンを分解することでアタッチメント・ロスを引き起こしている」という。
大島教授らは
歯周炎の治療薬の開発を視野に研究を進めるという。
歯科界全体として、新たな歯周炎治療を考えるきっかけになることを期待したい。
(抜粋引用ここまで)
この研究成果は、これまで対症療法中心であった歯周炎治療から、
歯周炎の根本治癒あるいは歯周炎予防の道筋が見えたといえる大きな転換点になりそうです。

なお、現在も大島教授らは
理化学研究所FANTOM5プロジェクトと協力し、歯周炎をこの世から無くす研究を継続しております。

私も続報に注視して行きたいと思っております。
以上、「ついに歯周炎治療の本質に切りこんだ。原因遺伝子を発見!」でした。
