「横っ腹痛い~」

 食べて急に走ったせいか、腹部の横が痛くなり、思わず右手で押さえました。

 東棟三階にある生徒会室。

 右手で腹部の横を押さえながら、左手で部屋の扉を開けました。

「やぁ少年。待っていたよ」

 朝見た一人の女子生徒が、部屋の中央に仁王立ちしています。

「こ、こんにちは」

 開いた扉を閉めるのも忘れるぐらい、彼女に見とれた皓一郎。

「会長~。転校生を初日から呼び出すなんて何考えているんですか?」

 と突然生徒会室に入ってきた一人の女子生徒。

「なっ! どうしたんですか?」

 もう一人の女子生徒は皓一郎に近づきました。

 皓一郎は彼女の声に聞き覚えがありましたが、見とれる方が勝ったみたいでずっと部屋の中央にいる女子生徒を見つめています。

「うるさい」

「うるさいってなんですか!」

「少年、とりあえず座り」

 皓一郎に声をかけると、彼女は生徒会長の役職札の所にある椅子に座りました。


「そういえば名乗ってなかったな。私は『こむらさき』だ。よろしく」

(ん? こむらさきが二人いる)

 会長は『こむらさき』、もう一人の女子生徒も『こむらさき』。

「二人は姉妹ですか?」

 皓一郎は思わず質問してしまいました。

「ん? いや違う。さては小紫って名乗ったのか? 間違えられるからフルネームで名乗らないと。私は『古村 紗季』で、彼女は『小紫 菜々愛(ななえ)』だ」

『こむら さき』と『こむらさき』、フルネームと名字、そしてイントネーションの違いなんだけど全く一緒に聞こえてしまう変な偶然。

「ごめんなさい」

 小紫菜々愛は素直に謝りました。

 どうも菜々愛は名字で名乗るのが好きみたいなのですが、初対面の相手にはやはりフルネームを名乗らないと変な誤解を受けるはめになります。


 皓一郎は教室に戻ってきました。

「浅い恋愛かぁ」

 クラスメートの一人、犬田由理子がぼやいているのが聞こえました。

 隣にいる東村久仁子は、家から持ってきているという新聞を広げて読んでいます。

(生徒会かぁ)

 あまりに突然の提案に、思わず返事を保留にしてしまった皓一郎。

 その提案とは、生徒会副会長への任命でした。
「また会いましょう」

 皓一郎を職員室まで案内した『こむらさき』は、そう言い残すと去っていきました。


 さて時間はお昼休みになりました。

 クラスメート達からの質問攻撃も一段落し、その中の一人柳元から学生食堂の存在を教えられ、皓一郎はそこへ向かいました。

 学生食堂の中はお昼時ということもあり、沢山の生徒達で混雑していました。

 とりあえず人気のサービスランチを頼み、食器を乗せたお盆を持ち、一つ空いた席に座りました。

 皓一郎は律儀に両手を合わせ、

「いただきます」

 と言い、さぁ今から箸を取ろうとした瞬間、

“校内放送、校内放送。二年一組の小田城皓一郎君、小田城皓一郎君、大至急東棟三階の生徒会室までお越し下さい。繰り返します。二年一組の小田城皓一郎君、小田城皓一郎君、大至急東棟三階の生徒会室までお越し下さい”

 という放送が流れました。

「えっ!」

 皓一郎は固まりましたが、放送で呼ばれた限りは生徒会室に行かないと思い、サービスランチを一気に平らげ、東棟三階にある生徒会室へ向かいました。
「会長何やってるんですか? 仕事はたんまりあるんですよ。っていない!」

 ふと現れたもう一人のブレザー服の女子高生が辺りを見回しています。

(あれ?)

 皓一郎はふと彼女の頭頂部に目を止めました。

(なんであんなのが)

 皓一郎は首を傾げました。

「全く~、あとで捕まえないと。あれ?」

 彼女はようやく皓一郎に気付きました。

 慌てて目をそらす皓一郎。

「こんにちは。あれ? どうしたんですか?」

 と言いながら、彼女が近づいてきます。

(はたして聞いてもいいのかな)

 皓一郎は悩んでいました。

 女の子の頭頂部にはまずお目にかかったことがないもの、それは看板の上で回っている姿をよく見かける単灯式赤色回転灯なのです。

「もしかして今日からうちの高校に転校してくる小田城君?」

 彼女は一発で皓一郎の事を見抜きました。

 皓一郎は気づいていませんでしたが、桜花高校の校門とそこに続く丁字路が彼女から丸見えだったのと、彼が別の学校の制服を着ていることもあり、彼女はいとも簡単に見破ったのです。

「あっはい、そうです」

「改めまして『こむらさき』といいます。よろしくお願いします」

『こむらさき』と名乗った女子生徒は皓一郎を促し、一緒に桜花高校の校門をくぐりました。

(あぁ聞けずじまいだった)

『こむらさき』の後をついていきながら、そんなことを考えていました。