「ははは! 大したことないわ」

 ルシファーは大笑いすると、水の入った容器目掛けて、自分の体を周回するキューブを投げつけました。



 シュー。

 皓一郎等が居る部屋に、何かの音が微かに聞こえました。

「煙?」

 菜々愛と紗季が同時に頭上に疑問符を立てます。

「早く逃げないと」

 悠斗と皓一郎もさすがに危機を感じ、菜々愛と紗季を追い立て、女性や侍女達と共に屋外に脱出しました。

「姫。あれはあいつの仕業かと」

 侍女が話している間も煙は建物を飲み込んでいます。

「意外に早く」

 女性がここまで話した時、建物の外壁が煙の中で溶けていくのが見えました。

「あれはタクティカル!」

 女性は少し声を荒げました。

 タクティカルというのはキューブの魔法の一つで、キューブやダイスの中から吹き出す煙であり、その使用方法によって色々な言葉をタクティカルの後につけていきます。

「溶けるのはウィルスがあるからだわ」

 女性の指摘通り、煙に含まれる成分が建物を溶かすウィルスだったようです。
「もう! 何で回らないの!」

 と菜々愛は苛立ちを募らせながら指先に力を込め、スイッチを勢いよく押しました。

 次の瞬間、彼女の周り一帯に赤い光線が走りました。

「キャ!」

 女性は身の危険を感じ、菜々愛より体を下にする為、床にお尻をつけて座りました。

 侍女達も女性を追うように一緒に座りました。

 赤色回転灯の中にある電球から発せられた赤い光線は、リフレクターと呼ばれる反射板がその周囲を自動で回ることで辺り一帯を赤く染めています。

 しかし赤く染まるだけならよかったのですが、赤い光線が当たった白い壁は何かに熱せられたかのように焼け焦げています。

「小紫さん、早く切って!」

 皓一郎が叫びました。

 このままだと白い壁が赤い壁になってしまうのと、これにより壁の強度が弱くなり崩壊してしまうと皓一郎は考えたのです。

 菜々愛も反射的にスイッチをオフにしましたが、よく状況がつかめていない様子。

「これはスゴい力です。これならアイツを倒せるかも知れません」

 女性は座り込んだまま、そう呟きました。



 マジカルキューブ内のうっそうとした森の奥に、あいつは居ました。

「ルシファー様、何やら凄いパワーを秘めた奴等が姫の元に現れたようです」

「何だと?」

 ルシファーは報告に来たアワリ将軍を押し退け、水が張っている容器の前に立つと、なにやら呪文を唱え始めました。
「……」

 しばらく皓一郎、紗季、悠斗は言葉を発しませんでした。

「そ、それは、高度な魔法……」

 女性は体を後退りさせました。

「そんなに凄いんですか?」

 素朴な疑問を率直に言う皓一郎。

「ここには見ての通り四角い物しかないわけ! それが魔法のステッキだから仕方がないの。でもこの世の中にはキューブやダイスといった、四角い物以外の魔法のステッキがあるって古文書をひもとけば載っているの」

 要は四角い物以外の魔法のステッキは見たことがない、といっているのです。

「うぅ」

 そんな時、小紫菜々愛が目を覚ましました。

 頭から外れた赤色回転灯を右手で頭につけながら、ふらふらと立ち上がりました。

「小紫さん」

 皓一郎が菜々愛に声を掛けました。

 でもその声は彼女には届きませんでした。

「あれっ? ここはどこ?」

 と彼女の目線が、頭から二つの触角を生やし体の周りに四角い物体を浮かしている女性を捉えました。

「!」

 菜々愛はポケットに手を入れ、中にある赤色回転灯のスイッチを押しました。

 何回押しても、辺り一帯に赤い光が反射しません。

 菜々愛は少し苛立ちを見せ始めました。