純子は海外、国内、気になる本を書店で予約購入した。それらの中には付箋が何枚も貼られ、マーカーや赤鉛筆が引かれ、厚さが倍ほどになった書籍もある。

 

 遺伝と環境、そんな言葉を見つけ、最初は

「遺伝には思い当たるところはない」

と思っていた純子だったが、

「そういえば大輔の伯父さんには細かいところがあった」

「母の芯の強さ、自分が思ったことを曲げない所」

「義理の父は人見知りする」

「自分は‥‥‥自分は、 もっともっと当てはまることがあるかもしれない」

なんだかありとあらゆることが翼に繋がっているように思えてきた。

 

 「環境」の文字には、自分の育て方が間違っていたのかと攻める毎日が続いた。

 

 翼は学校に行ったり行かなかったりを繰り返した。翼が大好きだった「おじいちゃん」に助けを求めるがごとく、純子はルーティーンをこなした。園の周りの落ち葉も掃くし、ゴミも拾う。ペットボトル、煙草の吸い殻、ありとあらゆる物が散乱している日もある。寒い日も暑い日も。

 

 何とかなるのではないかと思っていたが、事はそううまく運ばなかった。

 

 精神科医、小児科医に薬を出された時はさすがにショックだった。大輔と共に

「これは絶対に違う」

とそこに通うのをやめた。常に2人で話し合いながら、何十人もの専門家のお話を聞いた。でも1番心に響いたのは体験談だった。不登校を経験して、たくましく自分の道を見つけた子もいれば、結局引きこもってしまった子など様々だった。

「できれば翼も前者のように‥‥‥」

という希望はあったが、諦めとも違う何かが純子に宿り始めていた。

 

 小学1年生の夏休み明け、なんとか学校にすべり込んだ朝、

「偉いぞ!」

と言われたな。その人は近所でも子ども好きの気のいいおじいちゃんだと有名だった。登下校時に横断歩道に立って、毎日子どもらを守ってくれていた。でも

「偉いって、学校に行くことが偉いって‥‥‥」

純子はそこに違和感を感じ始めていた。中学はどうなるだろう?

 

 母に相談するのははばかられた。忙しい母に迷惑はかけたくない。母から翼の話を持ちかけられたこともない。未だに「仕事人間の母」に自分は抵抗しようというのか?そして頭に浮かぶのは父の顔だった。

 

 「おとうさん、翼のこと見ていてほしい」

既に他界している父にそんな言葉を投げかけても翼のことが解決するなんてあり得ないのに。

 

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