大輔は休みの日には翼を動物園や植物園に連れて行ったりした。昆虫についての催しがあると聞けば、会社を休んでまでも、遠くまで連れて行った。翼が今1番興味を示すものが動物と植物だ。でもその時は楽しそうにもしているが、家では表情が見えなかった。翼が声を出して笑う姿を見たのはいつだったか。

 

 3年生になった頃には登校できる日、できない日が半々ほどになった。高学年になった頃には大輔の中には諦めとは違うが、

「これも良しとして受け入れるしかないのでは?」

という気持ちが芽生えていた。諦めと同じかもしれないが、自身が認めたくなかったのだ。

 

 純子はその間懸命に動いた。スクールカウンセラー、市の教育相談、精神科医、不登校を経験した子どもの親御さん、面接の予約取りから始まって、実際にお会いして、その内容を持ち帰って大輔と話し合う。が、当時は診断がついたわけでもなく、これといった解決策があるわけでもなく、2人してさまようばかりだった。

 

 いつの間にか、翼は中学入学を迎えていた。

「時間は戻せない。かと言って自分が仕事を減らして翼のことに向き合うことはできただろうか?そうしていたら、何か変わっていたろうか?」

時の経つのが速い。6年間があっという間だった。

 

 大輔は未だに自問自答する日々が続いている。そして、義父の死は翼にとって受け入れがたい事実だったのだろう。

「おじいちゃん、また一緒にセミ取りしたいよ。大きくなりすぎたキュウリを見て笑ったよね。あの夏に被った麦わら帽子はまだあるよ」

 

 大輔には翼の叫びが聞こえるようだった。

 

 音符不定期に続きます