夕食時、夫が

「日本ももう終わりだ!」

を連発するので、何かと問うてみた。

「どうしたの?」

待っていたように彼は説明を始める。

「帰りの車内で、ちょっと杖をついた70代くらいの人が乗ってきたのよ。優先席ではないんだけど、3人の若者が座っている前に立ったわけ。それがさぁ、3人が揃いも揃ってスマホ操作をしているわけ。誰も席を譲ろうとしないわけ。夢中になって文字を打ったりゲームしたりしている。これじゃあ、日本も終わりだ」

と。

 

 でもそこまで言うんだったら、一声かけたらいいんじゃないかと思う。でも、そんな提案しても

「そうだよな。オレが一言その人の代わりに『席を譲ってください』と言えばいいんだよな」

って素直に認める夫ではない。そういう私の意見に、不機嫌になる。逆切れすることもあるので、私は

「世も終わりだね…‥」

と同調する。そうよ、私だって言えない。いきなり刃物出されても嫌だし、舌打ちされただけだって怖い。今は何があるかわからないもの。

 

 で、こういった光景は私も今まで結構な回数見てきた。今更夫に伝えない。私が伝えたのはちょっと違った思い出した話。

 

 その日、私は電車の優先席に座っていた。

「ま、権利はあるかな?もし、具合の悪そうな方や私よりご高齢の方が乗ってこられたら、お譲りしよう」

と思ってはいた。すると、20代くらいの女性が乗りこんできて、私の前に立った。バッグにヘルプマークが付けられているのに気付いた。そう、赤地ベースに白の十字架とハートマークがついたカードケースのような物。彼女は、吊革につかまって目を閉じた。なんだかだるそうにしている。脚の力が抜け、つり革の手だけが彼女を支えている。


 私はすぐに席を立った。彼女は倒れこむように私が座っていた席についた。お辞儀は、されなかった……と思う。お礼は言われなかった。私も期待していない。それほど辛そうな姿だった。

 

 その電車がとある大きな駅に着き、多くの乗客が降り、入れ替わるように人が乗り込んできた。するとその彼女、勢いよく立ち上がり、慌てて降りて行った。その後も彼女は人をよけながら、ホームを走っていた。私は開いた口がふさがらなかった。

「ちょっと~、走れるの?私には無理だわ。明らかに私より速いスピードだし」

私は席を譲らなくてもよかったのか?

 

 夫の話は重要な話だ。けどね、私の話の方がずっと面白いでしょ?夫は爆笑していた。