輝星が子リス保育園で受け入れてもらえたのはみゆきにとって、とても喜ばしいことだった。以前通っていた『H市第三保育園』で、嫌な思いをした。

 

 確かに輝星の発達は遅れていたかもしれない。言葉も遅かった。自分なりに調べたり、医者に相談したこともあった。当然のことながら夫とも相談していた。

 

 3歳まではお遊戯会、運動会、お誕生日会などの行事で決められたことができない。皆の中で何かやろうとすると、かたまってしまう。下を向いてまったく行動できない。人前で何かをすることが苦手なのだとみゆきは思っていた。

 

 そうかと思うと、外遊びでは1人でずっとお砂場で山を作る。トンネルを掘り、水を流す。

「お教室に入いりましょう」

の先生の声も耳に届いていないようだ。何度も連絡ノートにはそういった輝星の様子が書かれていた。

 

 そろってダンスをすること、歌を歌うこと。お誕生日会では先生が

「こうせいくんの好きな食べ物は何ですか?」

とインタビューのように、その月生まれの子どもに問いかけるのだが、一切口を開くことはなかった。

「恥ずかしがり屋なんです。家では問題なく会話できているんです」

耳の聞こえが悪いのかと心配したが、少しでもおしゃべりができるということは大丈夫と健診で言われた。

 

 ところが、ある日、園長先生から

「小学校入学前にWISCというテストを受けたらどうでしょうか?」

と言われた。5歳になってすぐの頃だったと思う。大体から『WISC』なんて知らなかったし、それがどういうことなのかも理解できなかった。それはどうも知能テストらしい。発達の遅れなどの診断にもなるようだ。みゆきはショックより怒りを覚えた。

 

 その日からみゆきは輝星の一挙手一投足が気になり、観察し続けた。受け答えは普通にできるが、人前では苦手。指示を出したときにそれを理解するのには時間がかかっているように思った。でも安易な言葉を使えばわかるし、この子のどこが問題だというのだろう?

 

 悩んだ末に、みゆきはテストは受けないことにした。

「もう少し様子を見ようと思います」

と園長に伝えて以来、距離ができた。園長は優しい先生ではあったが、人の気持ちを汲み取ることはあまり上手ではなかった。

「そういうことは親が決めるべきことで、他人から言われるのはどうか」

とみゆきは思った。

 

 その後、年度が替わる時期に保育園を転園した。たった1年ではあったが、これ以上ここの園にはいられないと自宅近くの第三保育園から、職場に近い子リス保育園に変わった。朝の忙しい時間に不便ではあったが、輝星のために頑張った。

 

 あれから数年が経った。小学校3年生になった輝星に何ら問題はない。発達に遅れがあるわけでもなく、学習も普通にやっている。私に似て、勉強が得意ではなさそうだから、優秀とは言い難いが。

 

 今では第三の園長に言ってやりたい。

「輝星は、普通にやっています。他の子と何も変わりません。あの時は悩みました。でも我が子を信じてよかったです」

どこかでばったり会ったら、絶対に大声で言いたい。

 

 そしてみゆきは我が子を信じて頑張った自分を誉めた。

 

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