純子は「幼稚園経営者の孫娘」として地元の人たちからは「お嬢様」と噂されてきた。純子はどこがお嬢様なのか全くわからなかった。そう思われることが嫌だった。

「どこがお嬢様なの?!」

 

 小学校から帰っても母はいない。日常の買い物も父と一緒だ。夕方のスーパーで友だちに会うのが嫌だった。それでもお菓子を買ってほしくて父親について行ったけれど、高学年になったら行かなくなった。

 

 純子は、泥だらけで野菜の収穫を手伝った。幼稚園生がジャガイモ堀りをした後の始末だ。堀り残しも多い。

「自分の靴や上履きは自分で洗いなさい」

と母に言われて外の水道を使っていると同級生のお母さんたちに

「あら、純子ちゃん、偉いわね」

と言われる。手伝いばかりさせられて、どこがお嬢様なんだ!

 

 祖母は近くに嫁いだ娘たちの家に行ったきり。息子より娘の子どもの方が孫として魅力的だったのだろう。子どもの頃気付かなかったことも大人になれば知ることとなる。

「これじゃ、自分はまるで鍵っ子だ」

父は優しかったが、母の代わりにはなれなかった。陽子ちゃんみたいにおかあさんと一緒にクッキーを焼いたりしてみたかった。

 

 高校卒業後の進路について、両親は信じ切っていた。純子が子ども科のある短大を目指すであろうこと。そして純子はその通りに進学した。ただ、純子の狙いは別のところにあった。両親はそんなこと、想像もしていなかったに違いない。

 

 専業主婦として子育てをしたい。

「おかえり~」

と家で子どもの帰りを待つ母親をしたかった。手作りのケーキをおやつを子どもに出したかった。親の経営する幼稚園を継ぐ気持ちは毛頭なかった。今思うと、両親への反抗のようだった。

 

 「子ども好き」「幼児教育」「保育」という単語は当時の男性に気に入られる条件だと思った。なんだか聞こえがいい。優しい女性のイメージがそこについてまわることを純子は知っていた。『子リス幼稚園』の先生方は短大や専門学校を出て、勤務に就くが、長くて5年、ほとんどが2~3年で結婚し、辞めていった。当時はそんな時代だったのだ。

 

 短大卒業後、会社勤めをし、2年で結婚した。お相手は、短大在学中に合コンで知り合った彼だった。両親は驚いてはいたが、いつかは幼稚園の仕事を担ってくれると信じていたようだ。

 

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