「女3人寄れば姦しい」

「3人寄れば文殊の知恵ならぬ、文句の嵐」 

浩一には3人の妹がいた。小さい頃は一緒に広い庭、畑を駆けまわってよく遊んだ。虫取りもしたし、チョウチョも追いかけた。野菜の収穫も手伝った。その昔はキャベツや大根など、商品として出荷し、それを生業としていた。浩一は4人で仲良く遊んだあの頃が懐かしかった。

 

 父が『子リス幼稚園』を開園し、その後継者として浩一の結婚相手は懸命に取り組んでくれた。妻の政子は浩一の自慢だ。ところが妹たちの風当たりは強かった。彼女らは

「お父さんが突然のくも膜下で死んだのだって、お兄さんとお義姉さんのせいだ」

と言い出した。何を根拠にそんなことを言うのか?

 

 彼女たちはどうも私たちの夫婦のあり方が気に入らないようだ。

「お兄さんは優しすぎる。お義姉さんには、もっとお母さんの面倒をみてもらいたい」

父が亡くなってから、母の世話は浩一の役目だった。母はそれまで掃除や食事など、家のことをやってくれていたが、父の死後、すっかり元気をなくした。食事の用意、掃除、洗濯などが浩一の役目となった。広かった敷地も幼稚園の規模が拡大するに従い、そちらに寄せられた。家庭菜園レベルになった庭ではあったが、野菜を収穫し、料理するのは楽しかった。

 

 ある日、浩一に急用ができ、政子が母の食事を部屋に届けた。その用事だって、園関係の仕事だ。政子は現場を離れることができず、浩一が代わって参加することになったのだ。


 そこにたまたま近くに嫁いだ妹が訪れた。その盆に乗った食事を見て彼女は驚いたそうだ。後日、妹は浩一に電話してきた。

「あんな食事、食べさせているの?今どき犬や猫だってあんな粗末な食事はないわよ!」

大き目の茶碗にご飯、その上に鯖缶と2つのミニトマトがあったと言う。ワカメと豆腐の味噌汁がおまけ物のように盆に乗っていたと。

「政子は幼稚園のこと、一生懸命やってくれているんだよ。食事は私の仕事なんだよ。あの日は急に私が用事ができちゃったんだよ。おふくろは何にも言わないよ」

「幼稚園、幼稚園って、やめたっていいじゃない。お義姉さんにはお母さんのお世話をして欲しいわ」

 

 結婚後、ずっと同居してきた。些細なことはあってもおおらかで小さなことにこだわらない母、責任感のある政子、仕事の分担もきっちりしていたから大きないざこざなどもなく、うまくやっていた。

 

 妹たちは3人そろって

「お兄さんは結婚するまではこんなじゃなかった。お義姉さんと一緒になって変わってしまった」

と言う。

 「結婚前の私がどんなだったというのだ!私はちっとも変わっていない!」

「ほら!そういうところが違ったって言っているの!昔は優しかった」

浩一は妹たちには言わせるだけ言わせておけばいい、と思った。

 

 政子だってうすうす感じてはいるだろうが、頭のいい彼女はそれに対して何のリアクションもなかった。常に笑顔だ。浩一は彼女のそんなところも気に入っていた。

 

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