先日我が家、掃除を怠っていた部屋で孫Bくんがカマキリの殻を見つけた。私だったら何も気づかずに(細かいものが見えなくなっているし)掃除機で吸い取っていたと思う。それほど小さかった。
「おばあちゃんのうち、カマキリ飼ってるよ」
Bくんの笑いの混じった言葉に一瞬耳を疑った。
「えっ?なにそれ?おばあちゃん、カマキリなんて飼ってないよ」
「だって、お部屋に抜け殻があるよ。きっとどこかにいるよ」
Bくんはとても生き物が好きなので、昆虫にも詳しい。
私はカマキリが脱皮をすることも知らなかった。セミの抜け殻なら小さい頃から見ているけれど。そうして思い出したことがある。
長男が小学校1年生の時、ザリガニ取りにハマった。友だちと近くの川に行って、取ってくる。水槽を買い、砂利も敷き詰め、エサも用意した。すぐに臭いがきつくなるので、長男は水を取り替えたり、水槽を洗ったりと一生懸命お世話をした。
そして私は初めて脱皮を見た。あ、最中を見たわけではない。抜け殻を見た。それは触覚や脚の1本1本がすごくリアルで、びっくりした。長男も初めて見たから、どうしても学校に持って行って、友だちや先生に見せたいと言った。ザリガニはカルシウム補給のために、脱皮したあと、自身の殻を食べるらしい。だから、完全な姿で殻が残っているのを長男は自慢したかったようだ。
翌朝、あまりの繊細さに彼はランドセルに入れずに、ビニール袋を手に持って登校した。
その日、彼はしょんぼりして家に戻った。訳を聞いてみる。ビニールに入ったザリガニの殻を先生に見せたら
「ショウタくん、ザリガニ、飼ってたのね。死んじゃってるね。すぐにどこかに埋めてあげよう。みんなに見せることは悲しいからやめよう」
彼は何も言い返すことができなかったらしい。先生もじっくり見ようとしなかったようだ。なにより、それがリアルすぎて、まさか抜け殻とは思わなかったのかもしれない。
長男が、自慢気にみんなに見せようと意気揚々と出かけて行った姿と、帰ってきたときのがっかりした姿に私はとても複雑な気持ちになった。先生をせめようなんて思っていなかった。私も長男もその先生のことが大好きだった。他の保護者のみなさんからも信頼の厚い先生だった。大きな身体の40代の女性教諭だった。子どもたちのためにとても熱心に指導してくださった。ときに厳しさも求めるけれど、愛情の深さを感じた。
長男はもうそんなことは覚えていないだろう。私もすごく悲しかったかといえば、それほどでもない。でも、もしかして、長男があの時クラスのみんなにザリガニの抜け殻を見せていたら‥‥‥。
「すごいなぁ」
「ショウタ、今度、そのザリガニ、見に行ってもいい?」
なんて言われて、得意顔になっている長男を想像してみる。そんな小さなきっかけで、彼は節足動物研究者になっていたかも‥‥‥。
なんてことはないです。子どもたちがお世話になった多くの教師や指導者の方々に、感謝の気持ちこそあれ、何の不満もございません。
