実母は、物を買った時に、その物によく年月日を書く。どうかすると、買ったお店や値段まで書いちゃう。例えば、冷蔵庫や洗濯機などの白物家電に油性のマジックで「令和8年9月7日」なんて書いちゃうわけです。端っこの方とはいえ、結構大きく。
 
 昔から父はそれをとても嫌がっていた。私も子どもながらに嫌悪感があった。そうそう、こんなこともあった。新聞に文字を書くのだ。ヘッドラインと呼ばれる大きな文字の隣のスペースに同じく「沖縄知事選 古謝氏やや先行」とかね。それも父と私は冷めた目で見ていた。

 今思うと、何がそんなに嫌で、何がそんなに悪いことなのか、よく分からない。ただ受け入れがたい行動だったのだ。
 
 父は
「おかあちゃん!又こんなところに書いて!」
と半分怒ったように言っていたが、
「書くな」
とは言っていなかった。母はきっと言ってもやめなかったろうし。
 
 今では私もたいしたことではないと思う。人に迷惑をかけているわけでもない。そして、悪ではないけれど、それをどこかなぜか受け入れられない人、何の疑問も持たずにそういう行動をする人、が、同じ空間で生活している。父と母がまさしくそうだった。
 
 以前はそれも仕方ないことと夫婦お互い譲歩していたけれど、最近はそれぞれの思いやこだわりが強くなり、結婚したくないと思う若者が増えているんじゃないか、なんて私は話を勝手に拡げた。
 
 先日実家に行ったら、母が
「beachan、この天板を裏返してくれる?私には重くてできないんだよ」
と言った。それは実家の掘りごたつ用に長年使われてきたもので、両面使用可能になっていた。所々ひび割れして、めくれ上がっている。
「長いこと、見てきたなあ。母もさすがに飽きたか」
と思いながら、やってみた。アレアレ、裏だって年季が入ってボロボロだわ……。
 
 そしたら、隅っこに見つけた。母の若かりし頃の文字。

見にくいでしょうが、確かに書いてある😯
 

 昭和34年2月22日って、私より年とってる‥‥‥。ボロボロだ。(私もこれと似たような古さ具合ってことね)そして新宿伊勢丹だと。当時2,800円。その頃の価格相場もわからないけれど、伊勢丹で買ったと知っただけで、私は高級品に思えてきた。配送してもらったんだって。

 

 そういえば、私が小さい頃から家電、その他家具などが故障や不具合、劣化すると、両親が

「いつ買ったっけ?」

「そろそろ替え時か?」

「買った場所で聞いてみよう。どこで買ったっけ?」

「説明書どこだ?」

ってなるけれど、母のおかげでそれはけっこうすぐに解決してきたんだ……。

 

 そして、今回はすごく感動した。私が生まれる前から、これはウチにあったんだ。母は田舎から出てきて、父と結婚して、程なくしてわざわざ新宿まで行って買ったんだ。商売を営む両親は、どんな姿で、新宿伊勢丹に入っていったのだろう?ワンピースでも着ていたかな?父はスーツ?

 

 母がマジックで書いていたこと、小さい頃にあんなに嫌がっていた私なのに、60年以上経って、こんな結果が待っていようとは思わなかった。