中学に入学して、すべてが新鮮だった。別の小学校から来た人たちともすぐに打ち解けて、部活は何にするかなど、ワクワクしながら話した。たった2歳しか離れていない3年生の先輩がすごく大人に見えた。
勉強に関しては緊張した。英語なんて初めてだし、算数が数学になり、いきなり難易度が上がった気がした。社会としてくくられていたものが、地理とか歴史に分かれ、1年生では地理を学習することになった。
地理の先生はショートカットの似合う美人の先生だった。てきぱきしていて、早口で黒板には大きな文字を素早くたくさん書く。圧もすごかったから、その音が教室中に響いていた。その先生だけはチョークに銀色のカバーのようなものをつけていた。指が白く粉まみれになることもない。私は授業中そのチョークの動きをボーッと眺めることが多かった。
その先生は結構厳しくいろいろなことを覚えさせた。最初の授業で地図帳を拡げ、北から順序良く日本の都道府県と県庁所在地をノートに書き出させた。終えたところで、先生が、指定した番号を発表し、各自赤い色鉛筆で書き込む。間違えた人や書き漏らした人はここで訂正する。
「1番、北海道、札幌市、2番、青森県、青森市‥‥‥」
と大きな声が飛ぶ。これが世界の国と首都にも拡がる。世界は多くの国があるから、アジア、ヨーロッパなど、地域別に書き出した。
そしてその後、小テストが始まった。授業の最初に先生が「1.北海道 2.青森 3.秋田…」って5問ずつ黒板に書く。小さなわら半紙に私たちは答えを書く。もちろん世界の国々もやった。「1.モンゴル 2.中華人民共和国 3.大韓民国…」って。私は仲良しのグループで覚え方を考えて、お互いに披露して記憶した。例えば今でも唯一頭にあるのが
「ネパール(オパール)買っといてマンズマンズ良かった」
っていうネパールの首都がカトマンズだってこと。
昨日のニュース番組でやっていた。アメリカとカナダの国境にある五大湖の一つ、オンタリオ湖の名称をアメリカ湖にすることをトランプ大統領が検討していると発表した。そのとき、キャスターが
「五大湖の名前を言えるのは受験生以外いないのでは?」
と言った。私は誰に自慢するでもないが、誇らしい気分になった。そう、かつてのその地理の先生が
「五大湖は『ス・ミ・ヒ・エ・オ』と覚えましょう」
と教えてくれた。私は今でもスペリオル・ミシガン・ヒューロン・エリー・オンタリオ、と言える。固有名詞の暗記が苦手な私だが、これは先生のおかげだ。
それにしても歴史がいろいろな書物や発掘や建造物の研究によって、のちに覆ることがあるのは理解できる。けれど、昔から名付けられたものをいとも簡単に変えようとするのはどうなの?名称には先人の、もちろん今に生きる人々の思いがあり、歴史と文化があるはずだけれど。
さらに恐ろしいことにネパールで洪水が起こり甚大な被害があったようだ。とても心配だ。五大湖とネパールのニュース、それらが身近に感じられた。
単なる暗記と侮るなかれ。
先生、あの時はありがとうございました。当時、みんなで
「ユミコ、厳しくて、うるさい」
なんて噂したこと、反省しております。
お変わりなくお過ごしでしょうか?