【自然淘汰】

 ダーウィンが進化論の中で唱えた用語で、環境に適したものが生き残り、そうでないものは滅びていくということ。

 

 大輔は中学の時の科学という授業でその言葉を知り、興味をもった。生物の進化、遺伝、そんなことに関係する書物を中学の図書館で手当たり次第に読んだ。部活で忙しい中でもそんなことができたのは、きっとエネルギーがあふれている年頃だったのだろう。が、それはあくまで中学生の好奇心レベルだったらしい。

 

 ほんの一時期、大輔が興味をもったその言葉が最近ではずっと頭の中をぐるぐるしている。翼は小さい頃から身体だけは丈夫だった。でも今の環境には適応できなかった。


 不登校や引きこもり、それは何かの訴えだ。この世の中を変えようとする声ではないか。そういう者たちこそが世の中を変え、生き残る‥‥‥。だって、そうでなければ、翼のような人間は、この世に生を受けていないことになる。大輔の勝手な思い込み、希望の混じった気持ちかもしれない。

 

 2年後には自然豊かな場所に3人で移住する予定だ。純子は着々と準備を始めている。フリースクールを立ち上げるのだ。今までの経験と子育ての反省から、今の世の中に役立つなにかをやりたいのだと。


 翼になんとしてでも太陽の光を浴びさせたい。大輔はそれができると信じている。人が少なくて、自然豊かな場所、環境を180°変えるのだ。翼の好きだったものをもう一度彼の周りに置く。

 

 翼のような人間にも生まれてきた意味がある。彼のような者が、生命の芯の強さを持っていると信じたい。

 

 純子が名付けた『子リスの里』を最初に聞いたとき

「もっと今の時代にマッチしたネーミングにしたら?」

と大輔は言った。

 

 純子は既に準備のために引っ越し、今は行ったり来たりの生活をしている。大輔は、翼を助手席に乗せて小型トラックを北へ向かって走らせる自分の姿が浮かんだ。

 

 今日も夕焼けがきれいだ。

「『子リスの里』という名前もまんざらでもないか」

 

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