明治座、私にとってそれはとっても敷居が高かった。東京で最も古い歴史を持つ劇場で、花道があったり、お席も1,300以上あるらしい。お着物で行かなくちゃならないイメージ。

 

 この度、帰国中の妹と行ってきた。2ヶ月も前に予約をして手に入れたチケット。私は、なかなかのんびりした旅の時間がとれず、今は舞台で本物の俳優さんやお笑い芸人、アーティストさんを見たり、映画鑑賞などで楽しむことにしている。

 

 たまたまネットを開いていて見つけた。妹も私も好きな俳優である柄本明さんと江口のりこさんが出るとあっては、これはぜひ観なければ。

 

 

 当日はお昼も気になったので、せっかくならと明治座のお弁当をいただいた。もうね、良家の奥様になった気分。

 

 

 物語は自然豊かな那須の地が舞台だ。住人の生活としてはそれだけでは経済は回らない。過疎が進み、夏の間は避暑地として人も集まるが、冬の寒さは半端ではない。そんな重いテーマが根底にある。淡々と進むお芝居の中で、役者さんの表情、会話の間の取り方、そこにクスッとした笑いが起こる。

 

 俳優さん一人一人が最後のあいさつで舞台の袖から現れ、深々とお辞儀をなさったとき、私はウルウルし始めた。気づくとハンカチを握っていた。映画でもなく、コンサートやミュージカルとも異なるお芝居の世界、それはそれで魅力的なものだった。

 

 その昔、母と叔母に連れられて、新宿コマ劇場というところに行った。何回か行った。弟もいた。何もわからなかった。おとなしくしていることに必死だった。子どもであってもチケット代はかかったことと思う。 母の膝ではなく1人で座ったのだから。

「お留守番でもよかったのに」

と思ったが、昭和半ばの父親というのは、子ども3人の面倒をみられなかったのだろう。幼い妹だけが残された。母や叔母は子どもを引き連れ、新宿という娯楽の場に足を運んだということだ。最高の贅沢であったに違いない。

 

 母たちはハンカチを顔に押し当てて泣いていた。私は内容をちっとも覚えていないけれど、島倉千代子さんだったと思う。母は大好きだった。家事をしながら、『東京だよおっかさん』を口ずさんでいたな。

 

 今ならばそのお芝居を観て、歌を聴いて、泣けるかもしれない。人生の経験というのは人の心を豊かにする。あれから60年が経った。

 

 私は今後の明治座のプログラムを早速チェックした。