春の選抜、夏の選手権、いわゆる高校野球甲子園大会の時期に思い出すことがある。小学校1年生の頃のことだった。何度かこのブログに登場したが、担任のおじいちゃん先生はテストをたくさんやらせ、それによって成績をつけていた。
「はいテスト~」
の先生の声を合図に、当時、2人用の木机に座っていたどちらかが椅子の背にかけていたランドセルを間に置く。カンニング防止のためだ。配られたテスト用紙にまず名前を書く。
私の隣に座っていた男の子は身体が大きくて、でも乱暴ではなくてとっても優しい穏やかな子だった。太っているというより、しっかりした体型の寡黙な男の子だった。授業参観などで見るおかあさんも大柄で色白の優しそうな人。
その彼の名前が、例えば「タナカシンイチ」くんとしましょう。そうです、彼は1年生にして既に田中と漢数字の一が漢字で書けるのです。
ある日、私は自分の名前を書き終わって先生の
「始め!」
の声がかかる前に、隣を覗いた。シンイチくんは「田中しん一」と書いていたんです。
私の心に火が付いた。私も漢字4文字の名前だが、その時点でまだ1つしか習っていなかった。それが悔しかった。私は小さい頃、先生の言いつけを守る素直でおとなしい子だと周りのおかあさんから評価されていた‥‥‥と記憶している。ところがどっこい、なんと意地悪な私だったのだろう。
「田中くん、名前を書くときに『田中しん一』って、1つだけ漢字で書けないのはすごくおかしいと思う。だったら、『たなかしんいち』って全部ひらがなにするか、『田中しんいち』の方がかっこいいと思う」
私、すごく性格悪い。
「シンという漢字を覚えたら?」
という声かけはできなかったのか?逆に習ってなくとも自分の名前もすべて漢字で書けるよう覚えれば問題はなかったのだ。私の頭にその考えはなく、努力もせず、先を歩く友人を自分のレベル以下に無理矢理引きずり下ろすという最悪の行動に出た私だった。
その後、どうなったかというと、彼はずっと全部ひらがなで名前を書いていた。私はテストのたびにまずそれを確認し、その後安心して自分の名前を書いた。私に対して、彼の素直さ、なんとかわいい男の子だろうか。身体は大きいのに。
2年生になる頃、彼は遠くへ引っ越してしまった。7歳の私にはそれがどこだかわからなかったが、高校生になった頃、彼が野球で甲子園常連の伝統校に進学し、柔道をやっていると耳にした。その学校はスポーツ強豪校だ。もちろん、柔道も強い。
甲子園の時期になり、その高校が甲子園出場を決めるたびに、私は必ず思い出す。今大会では、既に敗退してしまったが。しんいちくん、あの時はごめんなさい。
肝心の「しんいち」くんのシンの漢字は未だにわからないけれど、私はしんいちくんが好きだったのかもしれないなあ。しんいちくんは私のこと‥‥‥嫌いだっただろうなあ。