義父が一人暮らしになって20年だ。夫、私、その他誰かしらが毎日顔を見に行く。最近は認知症と思われる症状もある。かかりつけ医でお薬をもらったりしている。
義父は普段、スーパーでちょっとしたお買い物をしたり、通院のほかは、居間でテレビを観ていることが多い。夫が休みの日には旅行や外食に連れ出したりする。庭の手入れだけでなく、家の周りの側溝を掃除したり、道の植え込みの草むしりをしたりするのが好き。耳が遠く、人としゃべることは得意ではない。
最近は、隣の小学校の子どもたちの姿を見るのが楽しいようだ。家のベランダからよく見渡せる。休み時間、体育、この時期はプールもある。
「顔を真っ赤にして走っているんだよ」
「暑いからプールは楽しそうだよ」
「足の速い子がいるよ」
「泳ぎの上手な子もいる」
なんて義父から聞かれる。そんなときの義父は、目を細め、ニコニコしている。
ところが、その小学校の副校長先生がやってきて
「水泳の授業を覗かないでほしい」
と言われたらしい。夫がたまたま義父の家にいたので対応した。義父は直接にはその話を聞いてはいなかった。口調はやわらかく「このご時世なので」とは言われたそうだが、お叱りを受けたってことだ。児童だけでなく、若い女性の先生もいるのだ、ということもあると。
夫はその日の夜、私にその話を教えてくれたが、半分がっかりしていた。
「なんだよなぁ‥‥‥。オヤジが通った小学校だよ。もう90歳にもなるんだ。いやらしい目でなんて見る年じゃないよ。スマホも持ってないし、撮影なんてできないし」
私もそう思う。けど、それは身内だからこその意見で、90歳と言っても今の時代、その行為はダメと言ったらダメなのだ。
「今はダメなんだよ。おじいちゃん、かわいそうだけど」
夫が義父に伝えようとすると、納得のいかない気持ちが逆に父へ向かってのきつい口調になりそうで、私は娘が伝えたらいいんじゃないかと提案した。彼女は小学生の 母親でもある。
「おじいちゃん、今は恥ずかしがり屋の子とかも多くて、プールを見られるのがいやみたいだから、やめてくださいって学校の先生が言いに来たんだって。おじいちゃん、残念だけど、仕方ないね」
と娘は言ったそうだ。昔の義父ならば
「なんだよ!オレはかわいいなあと思って見ていただけだよ!」
と強い言葉が返ってきただろう。今は認知症の症状なのか、薬の効果?なのか、単純に年のせいなのか
「そうかそうか、わかったよ」
と穏やかに笑顔で頷いていたらしい。私はそれが、なんだかとっても辛かった。
義父も夫も子どもたちも、さらに今では孫(義父にとってのひ孫)も通う小学校だ。義父はたまにひ孫も見つけたと喜んでいた。それが、自分の息子より若い副校長先生という人に注意を受けてしまった。
そんな世の中なのだ。私は頭では理解しているが、ちょっと切ない。何の言い訳もせずに頭をコクリとした義父を想像すると、胸が締め付けられるようだ。
一方で、義父はここ数日はベランダに出ていないようだが、今後、またその風景を見ようとするかもしれないと思ったりしてハラハラしている。プライバシー、ハラスメント、個人情報、様々な問題が山積みの世の中だ。
そして先日の小学校教師の不祥事!全くもって腹立たしく、90高齢者に注意する前に自分たちがしっかりして!と言いたいわ。