毎年この時期に、母は大量のラッキョウを漬けて皆さんにお配りするのが恒例となっている。一体いつから始めたのだろうか?10年ほど前からは、八百屋さんでの受け取りが重労働ということで、私が買いに行っている。

 

 『鳥取ふくべのラッキョウ』10キロを予約注文し、入荷したら連絡をもらって受け取りに行く。そして実家に運ぶ。母はそれを洗い、下処理をして漬け込む。その1週間後には本漬けをする。

 

 若い頃はそれほどおいしいとも思わなかったし、子どもらのご飯のおかずにもならないし、すこーしだけもらって食していた。ところが最近は「身体にもいい」と聞いたせいか、歳のせいか、すごくおいしい。母からもらう量も増え、毎日3~5個づつ大事に食べる。

 

 母のノートにはそのレシピが貼ってある。古くてシミだらけで端っこは折れたり破れたりしている。それに従って、毎年母はこの作業をやってきたのだ。ある年には大変だからと、量を減らしたら、調味料の量を計算できなくなったと電話があった。

「いよいよぼけてしまったのか」

と心配したが、80歳も超えていたら比例計算って難しいだろうな。説明をして、紙に書いて、置いてきた。

 

 台所の冷たい床にペタンと座って(おちゃんこ座り?)大きなプラスチックの黄色い桶や大き目のボウルやザルを置いて、作業する母の背中が年々小さくなってきたように思う。それでも母は

「みんながおいしいと言ってくれるんだよ。八百屋さんに追加したこともあった」

と言う。人に物をあげて喜ばれるのが大好きな母だ。

 

 昨年は、たまたま妹が実家に来ていた。私も初めて手伝った。母は

「今までは1日がかりだったけど、助かったよぅ」

と顔をくしゃくしゃにして喜んだ。切れの悪いハサミや包丁を使ったせいか、妹と私は

「これは眼鏡必携だね。涙が止まらない」

と鼻をズルズルさせていた。その横で黙々と作業する母。私たちは

「年取ると涙も出なくなるのかね」

と言って笑う。耳の悪い母には聞こえない。

 

 

 

 今年も3人でここまでやった。この作業はあと何年できるのだろうか?妹も私も

「自分だったら、絶対やろうと思わないわ」

と断言している。