「周りの人が気持ちよく生活できるように動く人」

これを聞いて、みなさんだったら何を思うでしょうか?他人がそういう人だったら、

「尊敬に値する人だ」

と感心するかもしれません。でも

「あなたはそういう人です」

と若いときに言われて心の底から喜べますか?

 

 それはかれこれ40年ほども前のことになる。結婚して直ぐに妊娠がわかり、ひどいつわりを乗り越えた頃だった。子どもが生まれたら、お金もかかるだろうし、夫婦2人で休みの日に遊びにいくことも控えていた。そんな時、住宅展示場は、格好のターゲットとなった。

 

 お金もない若い2人にマイホームを建てる予定もないのに、あそこは結構楽しかった。よそのお宅訪問ってワクワクする。特に住宅展示場のそれって、贅を尽くして建てられているから、なおさらだ。

 

 住所や名前を書かされたりアンケートに答えたりするのは面倒だった。あとから郵便物が届いたりしそうだし、強く圧がかかる。適当にごまかしながら、何軒か覗く。ところが、ある大手メーカーさんで1人の男性社員につかまってしまった。当時40代くらいに見えた。なぜか、夫はその男性の話に引き込まれ、住所氏名を書き、気付けば椅子に座ってすっかり2人の世界に入ってしまっていた。

 

 こうなったら私は大手を振ってそのお家を見学できる。1人であちこちと見て回り、色んな扉を開けては

「こんなに収納があったらいいなぁ」

とか、洗濯機までもが隠されていて驚いたり。リビングのガラスは、これでもか、というほどに大きく日の光を取り込むのに十分すぎた。2階にも上がる。吹き抜けになっていた。

 

 しばらくして戻り、夫の横の椅子にスルリと座り、会話の内容を聞いてびっくり。お金の話(株や投資)をしているではないの!私の留守のほんの数分になぜ話がそこにたどり着いたのかはわからないが‥‥‥。ちっともお家を建てる話なんてしてない。

 

 そして夫は

「あなたが将来お金持ちになるかどうかはわからないが、お金に困らない」

とその人に言われていた。その言葉は妻としては嬉しい言葉ではあったが、果たしてこの社員さんは何者なのか?到底信じられない。けれど、そうなったら自分自身のことが聞きたくなる。そして言われたのが

「奥様は‥‥‥『周りの人が気持ちよく生活できるように動く人』です」

って。なんだか、適当じゃない?こんな答えでもしておけば収まる、みたいな感じじゃないですか?

 

 その時はもうがっかりですよ。20半ばで、私はそれなんだ、ってしょんぼりした。人のために動くって、立派なことだけれど、医療従事者でもないし。周りの人と言っても家族や友人など知った人だけに限られそう。私、それで人生終わり?でっかいことやり遂げたり、足跡を残したり、できないの?

 

 さて、振り返ってみる。お金で苦労したこともあったが、お金で不幸になる40年ではなかった。自分は家族や友だちを大切に、過ごしてきたつもりだ。自身は何も成してきてはいないけれど。

 

 あの男性はどうしているだろう?概ねあの方の言うとおりだったかも、と思う。いやいや、もしかしたらこれからの私の人生、何かあるかもしれないと期待してみたりもする。