私がOL時代の苦い思い出。

 

 2月のみぞれ交じりの冷たい雨が降っている日だった。就職して1年近くが過ぎようとしていた。慣れも手伝って、私が毎朝利用する通勤電車は時間ギリギリのものだった。これに乗れば間に合う‥‥‥。が、それは当然満員電車だった。

 

 その日もいつも通り、上手く身体を潜り込ませることができた。が、いつもと違ったのは右手が長い傘を持っていたこと。柄の丸くなったところを握っていた。腕を引く。その結果、傘は電車からホームに飛び出た。左手は弁当入りのバッグを持ち、既に他人さまの身体に持って行かれていた。本当はそれでよかったのだ。傘が挟まれていたら、駅員さんが何とかしてくれる。ところが、私は一瞬のうちに自分で解決しようと指が動いてしまった。傘が壊れるのも嫌だったし。

 

 手が大きいことが災いした。ピアノならゆうに1オクターブが届く。178センチの夫の手より大きい。女性用手袋を探すのは、至難の業。これまで私よりも大きな手の女性に出会ったことがない。そして、小さい頃ピアノを習っていたから、少しだけ指の動きに自信があった。

 

 

マニキュアくらいすればよかったショボーン
この状態からの
 

これです。こうしちゃって挟まれたガーン

 

理想の完成形ニヤリ

 

 わかりにくいかもしれませんが、こんな風に指と手首を使って傘を引き入れようとしたのです。イメージでご理解ください。

 

 その結果どうなったかというと‥‥‥中指と薬指の2本の指の第一関節と第二関節の間がドアに挟まれた。急行電車で、15分ほど、それはそのままになった。ドアは異物(ヒトの指2本分)が挟まれているのを認識してくれなかった。

 

 ドアの部分、じっくりご覧になられた方、いらっしゃるでしょうか?それは黒いゴムになっている。一見そのゴムに守られそうですが、ゴムでありながら、硬い。とんでもなく痛い。

 

 車内で皆さまそれぞれ身体の収まりが落ち着いてきたころ、早くも我慢の限界がやってきた。私は背が大きく、可愛いタイプではなかったが、その時ばかりはかわいい声を出すしかなかった。小さい声で

「いたい‥‥‥。いたい‥‥‥」

と言い始めた。恥ずかしいし、どうにもならないことは分かっていた。昔の言葉で言う『ブリッコ』を決め込んだ。

 

 その声と私の指に気づき、若い男性が

「大丈夫ですか?」

と言って、自分の傘をドアのゴム部分に差し込もうとしてくれた。何とか隙間を作ってくれようとした。でもびくともしない。当たり前だわ。そんなことでドアが開いたらもっと怖いわ。

 

 更に非常ボタンの近くにいらした中年男性が

「押しますか?」

と声をかけてくれた。が、電車を停めたらエライ金額を払わされると聞いたことがある。私としてはそれだけはやってはならない。小声で

「へいきです‥‥‥」

と応えた。

 

 15分間痛みに耐え、駅に到着した。人々は流れるように電車から押し出され、誰も私の心配などせずにそれぞれの目的地に急いでいた。会社や学校で

「今日さぁ、電車のドアに指挟まれたアホな子がいてさぁ。笑っちゃったよ」

どうせ、そんな風に噂でもしたことだろう。

 

 私の指のその部分はいつもの太さの半分になっていた。これが骨の太さなんだろうな。

 

 会社に着き、同僚の1人にこっそりその話をした。彼女はその指の太さと真紫になった指先を見て、気の毒がってくれた。が、午後には別の課にもそのことは知れ渡っていた。私の指は元気を取り戻し、誰も同情してくれる人はおらず、ただただ笑いものになるだけだった。

 

 あれから、何回かはベビーカーの車輪がドアに挟まれるなどのニュースを耳にした。最近はホームドアが設置されるところが増えた。けど、私は、何かの拍子に指だけ挟まれるってことが無くはないんじゃないかと密かに思う。私みたいにドジな人間は絶対にいると思う。

 

 設計者の皆様、あれはホンットに痛いです。今では改良されて機械が指1本でも感知するようになったかな?試す勇気はない。