今から20年ほど前、友人からお聞きした話。
彼女は3人のお嬢様のおかあさん。それぞれ、当時は中学高校、JKとJCのママさんであった。最近は、その年齢の女の子も「パパ大好き」「パパっ子」など、耳にするけれど、あの頃は
「パパ、ウザイ」
「パパ、臭い」
とパパの地位はさんざんだった。彼女のお宅ももちろん‥‥‥。
あんまり子どもたちにそんなことを聞かされるものだから、最初のうちは
「パパ、可愛そうじゃん。家族の中で男1人だよ。パパだって頑張っているんだから、いじめないでよ」
と言っていた彼女だったが
「確かに枕が汗臭い、なんか、女4人の会話に無理矢理入ろうとして、痛々しい」
と思うようになった。
「子どもたちに洗脳されちゃったのかなあ」
と彼女は言っていた。洗濯では、旦那さんの物だけ別洗いするようになった。
「とにかくシーツと枕の臭いが最悪!」
って。
そしてしばらくして、彼女に異変が。とにかく味覚嗅覚が全く分からないと言う。耳鼻科や内科、メンタルクリニックも訪れたが、一向に改善の余地なし。その間、お薬も処方されたし、色々と試したけれど。どうなってしまうのか、とても不安だったらしい。
食事って、物を口から入れるって、すごいね。味覚嗅覚がないと、食べた量がわからないらしい。ちっともお腹いっぱいになった気もせず、最初の頃食べすぎて体重がどんどん増加したって。これはまずい、ということで食事の最初に自分個人の分量だけ取り分けて、それだけを食べるようにした。
今はコロナもあって、その後遺症として、そんな症状をよく耳にするが、20年も前のこと、彼女はこのまま生きている限り続くのかと、だいぶ悩んでいた。そして、1年2年と過ぎていくうちにこれも自分の人生と、受け入れるようになったらしい。幸い、それ以外の症状は無く、検査の結果でも大きな異常は見つからなかった。
薬も効果がないのなら、と飲むのをやめた。
「むしろこれで味覚嗅覚が戻ったら、食事が楽しくなって今度こそホントの食べ過ぎで太りそう」
なんても言っていた。
3年ほど経った頃、なんとなく娘さん達がお父さんをウザイと言わなくなった。アレは年齢的な一過性のものなのか。それとともに、洗濯の別洗いについても
「なんて面倒なことをしてきたのだろう?一緒にすれば1回で済むところを‥‥‥」
と彼女自身が思うようになった。親子の食事中の会話もフツーにおこなわれ、時々は
「パパ~、車で駅まで送ってよ」
とか
「学校の面談は、ママじゃなくて、パパに来てもらう」
なんて聞かれるようになった。
はい、不思議なことに彼女の味覚嗅覚がだんだんと戻ってきた。彼女は『オヤジ臭』と言いながら、夫に失礼な態度をとっていたことを大いに反省した。それが理由だったのかも、と本気で思ったって。
これは嘘のような本当の話です。