サトシは4年生になった頃から盛んに僕の自転車を乗り回すようになった。6年になった僕が帰宅すると、僕の宝物は既になかった。6時間授業が増え、帰りはサトシの方が早いに決まっている。

 

 「サトシが僕の自転車使っちゃうんだよ」

とうちゃんに言ってもかあちゃんに言っても

「兄ちゃんなんだから我慢しなさい」

「かあちゃんのママチャリ使いな」

と言われるだけだった。

 

 このときばかりは夜、布団の中で泣いた。僕がかあちゃんに買ってもらったたった1つの宝物、それまで奪われて。いつも磨いていたのに、サトシは雨の日もチャリ置き場の外に置くから、少しずつ汚れてきた。そうか、アレは僕のための自転車じゃなかったのだ。みんなで使えってことだったのか。気付かない僕が悪かったのだ。

 

 でも僕にも楽しい思い出はあった。仲間だ。思い起こしてみると僕の小学校は落ち着いた学校だった。2年生の時に『エンガチョ事件』があったものの、その後、いじめもなく、大きな問題行動を起こすような子もいなかったのだから。僕のことを仲間外れにする子もいなかった。

 

 「オマエ」って呼ばれることを覚悟していた僕だったけど、みんな、「ツヨシ」って名前で呼んでくれた。タモちゃんだって「タモちゃん」だったな。

 

 一緒になって公園でサッカーをやったり缶蹴り、三角ベースをやったりした。外で遊ぶ子が多かった。低学年ではビクビクしていた僕だったが、堂々と彼らと付き合うことができた。

 

 タモちゃんと、少し距離ができ始めた。

「タモちゃん、外で遊ぶって楽しいよ」

僕の声は届かなかった。

 

 あっちの公園、こっちの公園と学区内だけでなく、遠くの場所まで10人くらいで出かけていく。メンバーの入れ替わりもあるけど、僕は毎日参加。もちろんみんな自転車だ。僕は、さすがにママチャリは恥ずかしかった。それなら走った方がましだ。ある日、マコトくんが

「ツヨシ、後ろに乗れよ」

と言ってくれた。僕はとても喜んだ。僕にも仲間がいるんだ!

 

 ところが、2人乗りをしていたらミニパトの姉ちゃんに見つかった。

「そこの小学生、2人乗りは危ないから降りましょう」

 

 それから、僕はみんなの後についていつも走った。ちょっとカッコ悪いけど、風を切って走るのもそう悪くない。誰かが時々後ろを振り返ってくれるのも嬉しかった。

「ツヨシ~!大丈夫かぁ」

いつでもどこへ行くにも僕は走っていた。


 「ツヨシくん、自転車無いから走ってるらしい」

大人たちになにを言われようと、僕はひたすら走っていた。

 

   続く