僕は弟のサトシが嫌いだ。サトシは、いつだって要領がいい。サトシは3年生になって、とうちゃんにねだって学校のサッカークラブに入った。
ある日、かあちゃんと、どこかのスポーツ店でボールを買ってきた。たいして上手でもないのに。とうちゃんとかあちゃんは僕よりサトシをかわいがっているように思えてくる。サトシが甘え上手なのか?彼のわがままはかなえられることが多かった。僕が自分の思いをもっと主張すれば良いのかもしれない。
とうちゃんもコーチの手伝いのようにして日曜日の午前中に校庭に足を運ぶようになった。日曜の昼間から飲んだくれていたとうちゃんを見ていたかあちゃんも喜んだ。
サッカークラブは親のボランティアで成り立っていた。時々、将来先生になりたいという卒業生のお兄さんがやってきて指導してくれることもあった。若いお兄さんは人気があったようだ。そしてサトシはすぐにそういう人の懐に入って行く。そして、可愛がられる。僕には備わってない長所と言っていいのか?羨ましくもあった。
クリスマスや正月や卒団には、練習を早く切り上げて、お汁粉や豚汁やカレーがふるまわれたことがあった。おかあさんたちが家庭科室で作ってくれたらしい。
「クラブに入っていない兄弟も参加していいんだよ」
とサトシに聞いて、僕は行ってみた。校庭に、テーブルが置かれ、そこに大きなお鍋が乗っていた。エプロンを付けたおかあさんたちが使い捨てのお椀にカレーを盛り付けていた。こんな時、かあちゃんも手伝ってくれたらもっと堂々と参加できるのに‥‥‥。
サトシはあろうことか、何度も列に並んでおかわりをしていた。僕は1回で家に帰ることにした。そこにいたおかあさんたちの目が優しくなかったから。
同じクラスの友人にも
「えっ?ツヨシ、なんでいるの?」
と言われた。単純な質問だが、僕は、バカにされた気がした。
「兄弟ならば来ていいって言われたんだよ!」
「2度と来るもんか!」
口には出さず、笑ってごまかした。
5歳のタカシはそんなこと気付かず、はしゃいでいた。タカシはかわいかった。やっと言葉がしゃべれるようになった頃、僕のことを
「チューニー(ツヨシ兄ちゃん)」
と呼んでくれた。その時のことは忘れられない。
なんにも考えずに 1人前に並ぶタカシの手を取って帰ろうとしたが、タカシは僕の言うことを聞かなかった。5歳のタカシには理解できなくて当たり前か。
とうちゃんは遠くで遊具に座って1人でカレーをつついていた。僕は1人で帰った。
続く