僕は家の事情も理解し始めていた。父ちゃんはどんな仕事か知らないが、夜にはいつも酒を飲んでいた。かあちゃんはデブだ。めったに学校に来ることはなかったが、僕は友人たちに見られるのが恥ずかしかった。何を食ったらあんなに太れるのか?

 

 あ、「友人たちに見られる」って言っても、友だちと呼べる人がいるかどうか、8歳の僕には判断できなかった。時々一緒に遊べばそれは友だちでいいのかな?タモちゃんには悪いけど

「僕のたった一人の友だちがタモちゃん」

は寂しすぎる。

 

 たま~に休みの日に同じアパートに住むおばさんが

「会費の集金に来ました」

と現れる。とうちゃんはドア越しに

「ウチにはそんな金、ねえよ!コメだって買えねえんだから!!」

と怒鳴っていた。なんの会費か知らないけど、それでいいのかな?ここを追い出されたら、僕たちは家を失う。

 

 サトシが「休む」って漢字を覚えた時にとうちゃんは

「インベンにキって書いて休む」

と大きな声で堂々と言った。ニンベンのことをインベンって、笑えるよな。でもちょっとわかる気もするよ。僕は何にも口出ししなかったよ。自分のとうちゃんだけど、情けなかった。かあちゃんは毎日パートに出かけていた。

 

 周りの友だちがサッカーや野球をやり始めた。遊ぶだけでなく、そういう教室とかスクールに通うのだ。でも僕はやらせてもらえなかった。サッカーボールだって買ってもらえない。野球なんてもってのほか。グローブもバットも色んな道具が必要だ。とうちゃんにお願いしたこともなかった。どうせ、怒られるだけだ。

 

 タモちゃんはそのへん、徹底していた。身体を動かすことが苦手だから、やりたいとも思わないって。友だちもいらないって。何して毎日過ごしているんだろう?と思ったら、そうそう、ゲームがあった。ゲーム機はおじいちゃんが買ってくれたらしい。

 

 たった1つ、僕がタモちゃんに劣るとしたらそれはお金だ。僕には聞いてもわからないカタカナのキャラクターの名前や武器がタモちゃんの口からどんどん飛び出してくる。そんな時のタモちゃんはすっごく興奮していた。1度誘われたことがあったけど、僕は断った。興味はあったけど、タモちゃんと勝負して勝てっこないとわかっていたから。

 

 「いいなあ‥‥‥。僕もゲームがあれば楽しく時間を過ごせるかもしれない」


 4年生になってかあちゃんが自転車を買ってくれた。それまで近所の人がお古を譲ってくれていたが、真新しいそれは僕にとって宝物だった。

 

   続く